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愛の嵐
その理由
 ノエルは、手首に巻かれた包帯を眺めた。
 目の前では、海国王ゲーラが、禁術に属する魔法を練り上げている。王だから暴走させずに操る事は出来るだろうが、肉体への負担が大きすぎる。だから、ノエルは来た。ノエルの生き血を惜しみなくゲーラに与えれば、術の負担は軽減される。
 おまけに側に控えるは、セリエにコマという、砂国有数の回復魔法の使い手。封印魔法に比べれば、魔法力は回復魔法で補充できるから、ゲーラの命の危険は、補われる。
「見つけた・・・」
 ゲーラが言い、術が終わる。
「では、参りましょう。ノエル様」
 ノエルは、艶然と微笑む。
 ノエルの父親は、弱い人だった。王にならずに犯罪者になった愚か者の弟である事に耐えられず、娘であるノエルを実験体にした。魔法力の弱いノエルを、次代の王になれるように作り変えようとした。できるわけない・・・。ノエルは、実験を繰り返され、ただの生きた魔法具に変えられた。当然、王になどなれる訳もない。
 ヘイトがせめて、魔法具を盗んでいなかったら、ここまでひどい事をされなかったのに、と、ノエルは恨む。まして、サイラの愛妾となってからは、その姿にいかにヘイトが卑しい存在か思い知らされ、血縁である事さえ忌々しい。
 それに・・・ノエルの目の前でヘイトは凱を犯した。ノエルは、一つ残らず見ていて、ヘイトが屑である自覚を強くした。
 そのヘイトが、凱を・・・。
「汚い手には、二度と触れさせませんわ。凱様」
 ノエルの体液は奇跡の魔法具。例え、体中の血を失う事になろうとも、引く気はない。
 ノエルは、決意を胸に秘め、立ち上がる。それを見て、セリエも居住まいを正す。
「さあ、行きますよ。カイザック様、コマ様、レマ様、そして・・・トークン殿」
「トークン殿が此処に?」
 カイザックは、ノエルを抱き上げながら、不思議そうに尋ねる。ノエルは飛翔魔法が使えないから、伴うには抱きかかえるしかない。
「此処にはいません。でも、海王の術は見えた筈。さあ、ケイラックに飲み込まれかけているであろうヘイトには、理性がない。派手に飛んでも、凱殿を攫おうとする直前まで、気が付きもしませんよ。邪神は本能のみで動いているのだから。派手に飛べば、合流して来ます。今回は、相当、長老に発破を掛けられているので、協力する筈です」
 コマとレマが手を握る。双子は、魔法を使う時、双方で高めあい、弱点を補い合う。サイラが、自分達の為にも治世を永引かせようと考えてくれている事も、分かっている。王になるに躊躇いはないが、もう一人を失う事はつらい。だからこそ、サイラへの恩義は強く感じている。
 サイラの狂気は、制御できぬ性欲と羞恥心の欠如だ。王になったにしては軽い、狂いの程度。ならば、このまま狂気を増やさず過ごしてほしい。そして、親友も姉も失ったサイラが、初めて渇望する相手である凱を、失わせる訳にはいかない。
 2人はにっこりと微笑み合う。
 1人ずつならば、まだまだ半人前の身なれども、2人で戦えば役に立つ。
 王になるのを馬鹿にして、挙句に邪神をその身に引き入れた愚か者に負ける事は・・・ない。
 カイザックの腰には、青の剣が装着されている。ヘイトを倒すは海国にとって重要だと認識されたので、借り受けた。
「さあ、参りましょう」
 それを合図に、全員が空に飛び立った。




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