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愛の嵐
紅い髪の魔法使い
「そこまで愛しき男の腕を離れてまで、何故にこの国に来るのじゃ?砂王は分かるがの」
 サイラが砂国を離れられないのには、理由がある。
「砂漠の民は、まだ落ち着かぬのであろう?」
 セイジ亡き後の砂漠の動向が、不安定なのだ。
「知ってのとおり、セイジが砂漠の長になるにも、いろいろあったろう」
「・・・ああ・・・、前々代の海王のことよの」

「人を苦しめるのが楽しい王じゃった。しかも、肉体的にではなく心を辱めるを好んでおった」
 ゲーラの前の王の事だ。
「凱も知っておるのか?」
「知っている。本来、砂漠の長になる筈だった男が、海王の夫だったのだろう?そして、セイジの兄だ」
 セイジの兄であった男は、砂漠の長の位を捨て海国に仕えた。この為砂漠の長の地位は定まらず、苦肉の策で少年だったセイジが何人かの後見で立位したのだ。もともと気性の荒い民なので、少年のセイジには荷が重く、苦労しての事だったのに、このたびの神子化で長の位が空位となってしまい、今だ揺れている。が、邪神騒ぎから年月のたっていない今、砂国と相性の悪い邪神を召還しかねないセイジがいる事はうまくなく、荒れるを承知での退位ではあった。
「砂漠の民には頭が上がらぬ」
「イザリ」
「あの女王はもっと早く退く筈じゃった。けれど、父上が即位するに用意期間が欲しかった。わらわは幼すぎた故。父上があのような術を使ったのは、王の適合率が少なかったが故、正気の短き治世を得て、わらわの成長を待つ為じゃった。が、父上に使う術の用意と時を稼ぐのに、砂の男は女王の元に来てくれた。女王の執着を受ける砂の男は、他に心を寄せていたのにそれを殺して、じゃ」
 海国の秘密を、当然周囲に気を配り小さい声なれどこのような場で言うべきではない。分かっていても、つい零れた言葉だった。
「砂の男は、いまどこに?」
 凱の問いかけに、イザリは首を傾げる。
「死んではおらぬが、皆目分からぬ」
「女王退位は、その男ではないよな」
「・・・知っておろう?」
 凱は砂国の宰相から、この世の何もかも伝えられているのだから。
「ああ・・・知っている。信じられないがな」

「だって、まだ3歳ぐらいだろう?エンヤは」
「そうじゃ、けれどそれをした」
 赤い髪の白魔法使い。
「俺もあの人にはかなり助けられた」
 一時病んだ身体の修復に、エンヤの力は欠かせなかった。その恩義あるエンヤが。
「今だ分からぬ」
 イザリは首を振る。
「海王即位の時に空間が歪むのはある。空間転移で行方知れずが出る事もある。あれほどの実力者じゃ。空間転移に巻き込まれたが先でも、強く生きておる筈じゃよ、凱」
 イザリの即位の前後の空間の歪みでの行方不明者に、紅い髪の魔法使いも含まれたのだ。

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