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愛の嵐
森の中
 森の中の一軒家である。
「で、ここはどの国の領土なのか?」
 凱の問いかけに男は、たははと困った様に笑う。
「それは内緒、かなあ・・・」
「内緒?なんで?」
 凱は眉を顰める。
「う〜〜ん。俺の奥さんがね、ちょっと特殊な立場の人で、君が信用できると確信できるまでここがどこかも俺が誰かも言えないなあ」
「え・・・?」
 男の視線は、奥の間に続く扉に注がれる。
「あ、俺の奥さん、もう少し君の言動見ないと顔出さないから。覗こうとしたら、折檻されるよ。真面目に強いし魔法も大したモノだよ。その代わり、君、身体可笑しいでしょ。ここにいる間、少しましになると思うよ」
 凱は、ぎょっとして男を見た。
「この森にはね、身体を癒す空気があるんだ。かなりましになるよ。と、いう事で、逗留してみてね。というより、ここの森・・・下手に動くと死ぬよ。確実に道知らなきゃ迷うし、はなぬるんるんもすなぬるんるんもいる。この家の周りは結界があって安全だけどね」
「は?はなぬるんるんとすなぬるんるんが両方?有り得ねえだろ?」
 両者は同じ系統の生物だが、生育環境がまるで違う。人為なくして両者が共存する事はない。
「・・・賢いね。本当に凄い。だって異世界人なのにそんな事知っているなんて」
 凱が異世界人である事はばれている。というのも、凱の太腿にある足輪はシューの作品で、己では取れずにサイラと別れた後もそのままになっている。日常で見える場所ではないが、気が付いた時には男にこれを確認されていた。身分の高い者が、検問などで身の証とする様に魔法石と共に飾り文字で出世や名が記してある。
 凱は、これを見る度に胸が苦しくなるけれど外す術はない。
「花国の図書館で働いていたからな」
「それでも凄い。君、勉強家だね」
 嫌みのない称賛に、凱は赤面した。
「ともかく、君の為にもここにいるのは良い事だよ。少しして奥さんも君を信用したら顔を出すし、俺達の事も話す。まあ、これも何かの縁。よろしくね?」
 男はおずおずと手を差し出した。
「・・・俺には拒否権ねえよな」
「うん、ごめんね。君が信用できて、俺達の事そう言いふらさないと分かったら、送ってあげるよ、森の外に。それとも、すぐに行かなきゃいけない場所、あるの」
 言われて、一瞬長い髪の男を想う。が、首を振ってその記憶を消す。
「ない」
 凱は己に言い聞かせる。
「俺には・・・この世界で待つ相手はいない」
 そう・・・。
「俺は独りだ」
 そんな凱を、男は困った様に見て首を傾げる。
「ともかくさ」
 男は凱の肩を軽く叩く。
「しばらく、ここにおいでよ。ね。凱君って呼ぶね。俺はクーで良いよ。よろしくね」
 こうして凱は、森の中で家で暮らす事になったのだ。

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あきゅろす。
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