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逃走中
プロローグ
 イーリアは、空を見上げた。
「私のせい・・・」
 子さえ孕めれば・・・卵を産めれば・・・。
 でも、イーリアにはその能力がない。不妊の女王のコロニーなど滅びるしかない。
 しかし、臣下の者達は滅びを受け入れる気など、ない。
『子が出来ぬなら、出来るものを狩るだけ』
 女王が孕めぬ代りに、異なる世界の雌に孕ませる。しかし異なる種族故、孕む事は少なく、孕む側のリスクは高い。孕まず死す場合がほとんどで、孕んでも出産で死亡する。
 人はもともと胎生である。
 その人に、卵生のアントの子を産ませる。
「例え・・・我々が滅んでも、それは間違いだ」
 悲劇の始まりを、女王イーリアは嘆く。
 本来、コロニーの全てを賄う出産能力を持たぬ代りに、イーリアは奇跡の力を持っている。こんなモノいらないから、卵を造れる女王でいたかったと思うけれども、それでも成せる事はある。
「せめて共に滅ぶから」
 イーリアは望む。
 コロニーの崩壊を・・・。
 異界にイーリアは降り立つ。

「私が・・・人を守る」
 
 異界人アントの侵略に立ち向かうべく、人を救うべく・・・。

「さあ、私と共に戦いましょう」
 子を孕む力の代わりに、女王イーリアが持ったのは、アント達と戦う能力を持つ戦士を造り出すそれ。人を強化し、アントの出現を予知し人を攫うを妨げる。
 永くは掛からない。
 孕ませる力を持つ雄の数は少なく、その能力を使える期間は少ない。アントの女王は短い期間で雄と交わり、体内に精子を貯留し卵を産出し続ける。故に雄が精子を排出できる期間は、人の暦で一年にも満たない。
 その間、アントの脅威から人を守り続ければ良い。
 異世界から人の世に渡るのも、容易くはなく、人の時間で一時間ほど。続けて渡るが叶う事もあれば、時をおかなばならぬ事もある。
 
 さあ、守ろう。

 そして・・・全てが成された後には、共に滅ぼう。
 
 我が最愛の同胞たちよ・・・。

 それが、アントの女王イーリアの決意。

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あきゅろす。
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