短編
鬼神遊戯7
学園に戻った出雲は、凪の怪我を知って慌てた。一度は惚れた相手である。今は自分に余裕がないが、それでも気にはなるので探せば、凪は学校裏に居た。
「凪・・・」
「出雲だあ・・・」
凪は振り向いた。痛々しい打撲痕の残る顔の凪は、けれど上機嫌であった。
「大丈夫か?」
「だ〜〜〜いじょうぶ、な訳ねえだろ、この淫売」
あまりに明るく言われ、意味が分からず固まる出雲に凪はけらけらと笑う。
「おまえは親衛隊以下、じゃあ、何されても良いよな。淫売はサイテー。けつ使って、るんだもんなあ。けつ好きなんだろ?じゃあ、いっぱい突っ込んでもらえば良い・・・オトコズキノインバイチャン」
凪の口から長い牙が見えた。
「クウウウウウ!クウノハオレ?オレ?オレ?」
変容は醜悪だった。
それなりに整っていた容姿の凪が人でないモノへと変わる。
餓鬼。
突き出た腹、飛び出した眼、こそげ落ちた頭髪。
「凪!」
出雲は絶叫した。
飛び掛かる異系のモノに抗う術はない。
時同じく、犬神右近と桃山太一郎は別のモノの襲撃を受けていた。
名を、猿島哲也。
もともとは桃山家の縁にありながら、鬼姫に仕えた男は満身創痍になりつつも、二人の相手をする。
「死ぬぞ・・・猿」
鬼神の加護を受けた太一郎に敵う訳もないのは分かっている。
が・・・。
「これ以上、あの方が鬼のものであるのに、耐えられるか・・・」
「猿・・・」
哲也は笑う。
「鬼姫様は約束して下さった。おまえらが付けた薄汚い輪廻の鎖を断ち切って下さると・・・。幾度転生しようとも、鬼のモノになるあの人を、もう見ている事には耐えられない」
「猿・・・おまえ、凪を愛しているんじゃないのか?」
右近が尋ねる。
副会長、猿島哲也は顔を上げた。
「あの方が惚れたというから、だ。あんなもの愛する訳がないだろう?私の愛は、あの方のモノ。他に魅かれるなど、この身に流れる猿島家の血が許さない」
「・・・可笑しいよ、猿島の人間は」
太一郎は嘲笑する。
「あの人は、輪廻転生を超えて鬼神様のモノ。そう決めて、我らは魑魅魍魎から逃れてきた、そうだろう?鬼の総大将を人の味方とする事は、あの人という極上の贄なくば、成せようもない」
昔、鬼に愛された人間がいた。
名もなきその人は、桃山家の長子でありながら忌み子とされ、名さえ持っていなかった。
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