短編
向こうの世界
夏休み前に来た転校生。そいつのせいで、学園は荒れに荒れた。そして、そいつに懐かれた僕は、学園中に憎まれた。
陰湿ないじめ、肉体への直接的暴力、終いには強姦。
僕は、穢れた身体を抱きしめて、絶叫した。もういやだ!限界だと!
『では、そのお身体いただけますか?』
その声に、僕は頷く。こんな汚い身体は・・・いらない。
『契約成立です。ありがとうございます』
次に目覚めたのは、知らない世界。
「愚か者が・・・」
私は、起き上がろうとして、自分の身体から流れ出す液体に、顔を歪めた。
不快。
不快。
「大丈夫か!」
バタバタと駆け込んできた、それ。
不快。
不快なものは・・・壊す。
「さあ、お菓子を食べましょう」
ニコニコと笑う、美しい夫人。
あの日絶望した僕は、この人によって、この世界に繰り寄せられた。異世界だというここで、僕は多くの人に感謝された。
人を屠る、化け物がいた。
人として生まれながら、人の心を持たず、けれど、生まれついての特殊な力で、この世界で暴虐を尽くした。
魔王と呼ばれた、悪鬼。
どうにか捕えて肉体を滅ぼそうとも、他の肉体に憑依し、宿主の魂を破壊して、新たな身体を得る。絶望の中で、最後に掛けたのは・・・魔王の魂を異世界に跳ばす事。異世界で、僕が自分であることを拒否したあの日、魔王は僕に宿り、僕はこの世界で魔王が使っていた肉体を得た。
この人の愛息。
魔王に魂を破壊された、犠牲者。
自分の息子の身体で、人が殺されることの苦痛から救われたと泣いた人は、僕に感謝を奉げた。皆が僕に優しくしてくれる。貴方のおかげで、魔王がいなくなったと。僕は、そんな感謝をくすぐったく思いながらも受けて、この世界で穏やかに過ごす。
本当は・・・分かっている。
この世界の化け物が、あちらで何をやっているかなんて。この世界の書物に、腐るほど書いてある。
けれど・・・僕は目を瞑る。
どうせ・・・くそみたいな世界だ。地獄になろうが、知った事か・・・。
「止めて・・・許して」
苦痛はそれを喜ばせる。
この世界の人型も、壊せば楽しい。
たのしい。
タノシイ。
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