短編
十年目
僕・・・いや、私は、16歳になっていた。
目の前で愛しい空也が連れ去られるのを、見ているしかできなかった。
空也の背の転移羽は、トウリール王に目の前で切り裂かれた。
「神子は・・・トウリールのもの」
にたりと笑う王の腕の中には、気を失った空也が抱えられていた。
「バレバレでしたわ。ルーシェエルタ様」
リゼットが言う。
攻め入ったトウリール軍に敵わず、王宮はあっという間に陥落した。兄王は腕を落とされ、神子と呼ばれていた青年はどうなったか分からない。
私も、トウリールに居を移され独房に監禁された。私を殺したりは出来ぬが、神子を隠し自分だけのものとした罪は重かったからだ。
ある日、共も連れずにリゼットが独房を訪れた。
「綺麗な方ですわ。でも、私、貴方の方が良いですわ」
にっこり笑う妖婦に、けれど、私は怯えることはない。
空也を失った私に怖いものなどない。
「知っています?王も宰相も、面白半分で神子を犯しましたの。でも、強い目で睨み据えて・・・。そんな強いあの方の唯一の弱点は、独房に居る禁忌の子供。貴方を傷つけようと脅せば、種馬の役目も、男娼の役目も、何でもしますのよ」
く・・・う・・・や・・・。
「ねえ、私、女帝というものに憧れていますの。・・・仲間になりませんか?種馬の役目は譲れませんが、男娼もどきの御役目は、王が倒れれば、ねえ」
リゼットの誘惑に、私は堕ちた。
空也を取り戻す為なら、喜んで世界でも滅ぼそう。
後世に伝えられるは、鮮血の10年。
トウリールの女帝は、毒婦リゼット。
夫は、禁忌の子供であった、異世界より召還された神子の為に王宮を血に染めた、殺戮宰相ルーシェエルタ。
神子の子供を限界まで生まされた王族の女は早死にし、男でも神子に触れた事のある者は、手術で知性を壊され、ただの種馬として使われた・・・。
その結果、トウリールの王宮は継続し、けれど、神子はその後どうなったか知らされていない。
空也・・・空也・・・
アイシテル・・・。
おしまい
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