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短編
九年目
僕は15歳の時、童貞を捨てた。
 相手は、トウリールの使者としてこの国に滞在している、王の従兄妹、名をリゼット。
「神子は、王と相も変わらずのようで」
 嘲笑含みの物言いは、僕の心を揺らす。
「例え、何を言われようとも、あの神子と交配するのはお断りですわ」
 交配と言うリゼットは、たぶん、かなり冷めているのだろう。
「言葉も話せず、かと言って他人本位で覚えようともしない。慣れ慣れしく、マナーも悪い。神子としてというより品位がなさすぎます」
 リゼットがいるだけで、トウリールの方から神子を寄こせとの依頼はない。兄王は、もともと異性愛者で、後宮にも男性はいない。神子に飽きて、苛々している。偽の神子に・・・。
「ねえ、ルーシェエルタ様、神子で言葉が通じない者など、いましたでしょうか?」
 疑いの眼差しに、僕の身体は震える。
「200年前に降臨なされた方が、確か・・・」
「まあ、良く学んでいらっしゃって!感心ですわ!でも、その方は、もともと耳が不自由で、言葉を操ること自体に問題があったのでは?」
 無邪気さを装う、覚めた瞳から逃げて、僕は塔に籠る。
 程なく空也が現れた。その姿は、薄汚れていて、らしくない姿に僕は驚いた。
「召喚に、場所は関係ないか・・・」
 空也は疲れたように言い、とりあえず湯殿に消えた。上がって来た空也は半裸で、僕は自分の中心が脈打ったのを感じた。
「今まで、日本で召喚されていたから、思いっきり僻地に召喚されるであろう頃に、行ってみたんだ。言葉も通じねえ・・・筈が・・・現地語が分かった。その時点で、ああ無駄だなこりゃとも思ったんだけど、試しにそのまま滞在していたが、案の定、だ」
「え・・・と・・・。お疲れ様」
 僕は、そう言いながら笑みが零れるのを隠せなかった。空也に会えたことが嬉しかった。
「へらへら笑うな!ビザとか、マジ、たいへんだったんだぞ」
 ビザの意味は分からなかったが、僕は笑って誤魔かした。
 と、空也が鼻を蠢かせた。
「ルー、おまえ、香水臭い?」
 僕ははっとした。リゼットの移り香だ。
「そっか・・・、小さかったルーも男だもんなぁ」
 感慨深げな空也に、僕は赤面した。
 違うのに・・・。リゼットに誘われて断らなかったのは、女性の身体に触れれば、空也への邪な思いも和らぐかと思ったから・・・。身体は喜んだけれど、僕は空也が欲しくてたまらないのだと、再認識されただけだった・・・。
 空也・・・君が欲しいよ。
「まあ、俺の鼻までもうあるもんな、背丈。俺は、かなりでかいんだが。筋肉も程よく付いてるし・・・あの細っこいのがよく育って。あ、こっちでは、皆、筋骨隆々とか言わねえよな」
「空也は、こっちでも体格負けしてないよ」
 綺麗に付いた筋肉。整った顔。けれど、女性的なモノは全くない、男らしい空也。
 なのに、僕は空也に欲情する。
 空也が欲しい。

 僕は、空也の身体に欲情しつつ、どうにか耐えた。でも、来年、最後の年に自分が、何もしないではいられない予感がした。
 空也の転移羽の周囲の痣は、濃くなっていた。


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あきゅろす。
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