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短編
七年目
 僕は13歳の時、初めて婚約者と会った。
「ケイテイとは、親友だったのですよ」
 白髪の老婆は、上品で思ったより嫌悪はなかった。せっかくだからと2人きりにさせて貰った時に、急かされる様に語られた言葉に、僕は目を見開いた。
「これは・・・秘密のことです。ケイテイは本当は前々代の巫女姫でした。可笑しいと思いませんか?神子の降臨が、ここまで切羽詰まっている事に」
 確かに、姫巫女が1代抜けただけでこの様相なのは、疑問に思っていた。
「ケイテイは国を裏切り恋に生きました。名を変え、それでもずっと罪悪感を抱えて生きて来ました。そこに、前代の姫巫女の事件です。貴方への風当たりの強さも、2代続けての姫巫女の喪失故。ケイテイは、夫が死んだ後、貴方の世話係として、どうにか雇われました。死するその時まで、貴方の為に生きようと決めて。けれど、ケイテイは年を重ね過ぎていました。自分が死す時、私に言ったのです。『ルーシェエルタ様には、前代の姫巫女の加護がある。その上に、自分の命を核にした術を使う。姫巫女の召喚術を・・・。この世界以外から、ルーシェエルタ様の為に、導く者を呼び込んでみる』ケイテイ死亡後、何も起こらないかに見えましたが、時を移して神子の降臨を星読みが告げました。すでに、何回かの降臨が成されている、時はない、と・・・」
『貴方様を、導く方が現れますように』
 ケイテイは、母の力に自分の命を乗せて有り得ない奇跡を起こした。処女の姫巫女が行う召喚術を既婚の老婆が行うなど、誰が思うだろう。
 この世界の全てに厭われた僕の為に、別の世界の神子を招いた。それが、自分の故国への最後の裏切り。
「神子様は、どんな方です」
 僕の婚約者は、穏やかな目で聞いた。この人から神子のことが漏れるとは思えない。今までだって、密告する機会はあったのだ。
「とても・・・素晴らしい人です」

 その素晴らしい人を、僕は汚す。
 同衾して眠る空也の体臭に、僕は高ぶる。用を足す振りをして、夜中に一人で自分を慰める。僕は、自分のそこから溢れる白い液体に絶望する。
 弟よりも・・・と言ってくれた、空也。
 僕の知識が深いのは、空也が本を読んでみたいと言ったから。この世界の字の分からない空也に、本に書かれた事柄を何でも教えてあげたかった。
 僕の背が伸び、ひょろひょろの身体にわずかずつでも筋肉が付いてきたのは、空也が身体が大きくなる事を喜んでくれたから。好き嫌いはなくなり、暇があると体を鍛えるようになった。
 僕が、まだ修行中だが剣や拳を使えるようになったのは、空也が救ってくれた命を守る為。そもそも空也がいなければ、僕は死んでいた。
 なのに、僕は、空也を汚す。
 空也以外は知らない・・・。
 ・・・いらない。

「そろそろか」
 回数を重ねれば、世界を超える時が分かるようになる。
「また、来年」
 僕の頭をぐしゃぐしゃにする手。まだ、僕より大きい、温かな手。
 気が付くと僕は空也の手を握って、掌に口づけていた。
 唖然とする空也に、はっとなる。血の気の下がる僕に、空也は笑う。
「じゃあな、ルー」
 空也はそう言うと、僕の頬に軽く唇を付けた。
 真っ赤になる僕の前で、空也は消えた。

 この時、僕は気が付いていなかった。空也の言葉が、日本語からこちらの世界の言葉に変わっている事を。通じるが故によく聞き込まなければ、空也が紡ぐ言葉が異なる事に気が付けないから。
 


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