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短編
五年目
 僕は11歳の時に、初めて夢精をした。
 書物の知識はあったけれども、その事に僕は混乱した。泣きながら下着を脱いでいる処に感じた、人の気配。
 空也が立っていた。
『おーめでたいな』
「え?え?え?」
『大人になったってことだぜ。ほら、早く脱げよ、気持ち悪いだろう』
 空也は、いつでも僕を楽にしてくれる。
 濡れた下着を取り払い、清潔な衣服に身を包むと、気分的にも落ち着いた。
『そういや、おまえ、オナニーは仕方わかるか?』
「おなにー?」
『あー自慰』
「・・・わかるけど、本で読んだ」
『いや、夢精するんだから、抜かねえとな。風呂場でいじくってりゃ出ると思うけど・・・おまえ周囲にエロ談義する相手もいねえしなあ。剥き方、分かるか。いや、剥くのははええか・・・。なんで、俺、こんな事で悩んでるんだ』
 溜め息を付く空也に、僕は情けなくなった。僕の事情を、空也は知っている。
『まさか・・・おまえ、自分の以外ペニス、見たことないか?』
「ペニス?」
『男性生殖器だ』
「絵ならあるけど」
 空也は天を仰いだ。
『いくらなんでも・・・。あのな、うん。絵じゃあ、なあ。・・・見るか、俺の』
「え?」
 僕が驚くと、空也は頬を掻いた。
『大人のがどうかも見たことなけりゃ、剥くのもできないだろ。さすがに、オナルのは見せてやれないけどな』
「・・・見せて」
 僕が言うと、空也は服をくつろげ、それを出した。
「・・・綺麗」
『おま!綺麗じゃあねえだろ!まあ、個人差はあるが、剥けている男性生殖器だ。陰毛も、生えかけだからまだ良いとは思うけれど・・・そのうち剥けよ、皮』
 空也は真っ赤になってそれを仕舞ってしまった。
 確かに冷静になれば、綺麗って思う形状ではない。でも、空也のそれを汚いものだとは思えない。
「触ってみたい・・・」
 思わず呟く僕に、空也は顔をしかめた。
『珍しいからって、変な事言うな。自分の以外触るもんじゃねえよ。皮の剥き方、教えた方がいいのか・・・?』
 悩む空也が、可愛くて、僕はくすりと笑ってしまった。
『笑いごとじゃあねえよ』
 空也は言いながら、僕の頭をくしゃくしゃと撫で、蕩けるような笑みを浮かべた。
『去年より、でかくなってる。おまえ、小さめだから、心配してたんだ・・・。良かったなあ、おい』
 僕が大きくなって喜んでくれるのは、空也だけだ。
「ありがとう・・・、空也」
『ルー』
 僕が驚いて顔を上げると、空也は笑っていた。
『ルーシェも、ルーシェエルタも言いにくいんだ。そろそろおまえ呼ばわりもまずいしな。ルーじゃあ、駄目か?』
「ううん!嬉しい!」
『ルー』
 僕は嬉しさのあまり空也に抱きついた。
 僕は11歳の時に、大好きな人に、特別な呼び名を付けて貰えた。
 僕の背は伸び、空也の胸に届くまでになってきていた。空也は長身で筋肉も付いた綺麗な身体をしている。対して、僕は貧弱で、上背ばかりひょろひょろ伸びていた。空也の腕の中にすっぽり入りながら、僕はいつか空也より大きくなりたいと、おぼろげに思っていた。

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