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短編
四年目
 僕は10歳の時、全てを知った。
「空也は・・・好きな人いる?」
 この年も3日間だけ現れた綺麗な人は、僕の質問に身を起こす。
『いねえ。おこちゃまがどうした?誰か気になる子でもできたか?』
 気になる子はいる。誰にも見向きもされない僕の側に来てくれる美しい人。たった3日の逢瀬を楽しみに、僕は生きている。
 大好きな空也。
 本人も知らない・・・聖なる神子。
 僕は、去年空也の背の傷を見てしまってから、今まで以上に本を読んで、特に隣国の事を学んだ。禁帯出の本もここには所蔵されているから、僕はかなりの知識を得ることができた。
 神子は、巫女姫によってもたらされる、隣国トウリールを救う存在。
 隣国の王の血筋は、魔法力の優れた者を排出する家系。その他の能力も高く、優れた血筋。けれど、血が淀みやすく、時がたてば生まれる子は病弱になり、死産も増える。それを救うのが、神子。神子の異世界の血は、唯一淀んだ王家の血を活性化させることができる。神子を降臨させるのは、血の淀みが限界に達した時。隣国の王家の成人した健康な者はわずかに4人。神子と結ばれなくば、次代は生まれない。
 神子はただの人間だ。けれど、この世界の血が入ってない神子でなくば、弱った家系の血に抗えない。神子は、王族と結ばれ子を成すのが役目。たまに、異世界から迷い込む者がいるが、これは、違う。巫女姫による召喚以外でこちらの国に来るのは、落とし子と呼ばれ、何かの事故でこちらの世界から異世界に行ってしまった者の血を含む。わずかでもこの世界の血が入っていれば、淀みを正す事は出来ない。こちらの世界の者は、境界を超えやすい故の事故だが、向こうの純粋な異世界人は、境界を超えることが難しい。故の召喚。
 召喚できるのは、1年に3日ずつ十年。
 神子は、召喚された時に転移羽と言われる傷をその背に負う。その傷と3日だけ同じ場所に現れる不思議さのみが神子の条件。召喚場所は特定できない。
 神子をこの世界に縛るのは、簡単だ。
 転移羽を、散らす。背の羽の傷を焼くなり、上から刺すなりして、傷つける。それで、神子はこの世界の住人になる。
 僕は、空也の背を見る。転移羽は、服の下だ。
 何も知らない空也は、興味深げに僕にこの世界の事を尋ね、夜には僕の技の相手をする。閨では同衾してくれる。
 空也が神子だと分かれば、隣国に連れ去られてしまう。そこで、王族の者と結ばれ子を成す。空也の子は、また他の王族と婚姻し、王家の血は活性化する。神子なくば、王家は滅ぶ。
 隣国が強大なのは、王家の者の並はずれた魔法力によるところも大きい。王家の優れた血に宿る魔法力なくば、巨大ゆえに他国に狙われるトウリールは、戦火に曝されるかもしれない。空也の出現は、トウリールの民の希望である。
 でも・・・僕は・・・。
 僕の頭を優しく梳く、長い指。異国風の、けれど、整った顔。
『まったく、最初はガキの子守りなんざ柄でもねえと思ったもんだが、今じゃ、弟よりおまえの方が家族みたいだ』
「ほんと!」
 ぼくが思わず顔を上げると、空也はくしゃくしゃと髪を掻きまわした。
『弟は、もうでかいし、まあ、いろいろ外野もうるせえしな。そうやって喜ぶところが、素直だな、おまえは』
 笑う空也は、とても綺麗だ。
 僕は、本当は神子の所在を告げるべきなのだ。
 けれど、空也とは会えなくなってしまう。空也以外、誰が僕の髪を撫ぜてくれるというのだろう・・・。
 大好きな、空也。
「ねえ、空也、この世界どう思う」
『どう思うもくそも、ここで子守り以外してないんだから、好きも嫌いもねえだろう?』
「じゃあ、元の世界は?」
『そりゃあ、いろいろあるにはあるが、あそこが俺の世界だからな』
 空也は、元の世界に居たくない分けでもない。
 神子だとばれれば、強引にこの世界に繋ぎとめられる。
「・・・大好き」
 僕は空也に抱きついた。
 空也が望まないのなら、僕は黙っていよう。神子のいないトウリールの民の絶望を思い、けれど、僕は空也を不幸にすることができない。
 僕は、空也の心臓の音を聞きながら、眠りに付いた。

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あきゅろす。
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