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短編
ある騎士の告白
 俺が王のモノになったのは、18の夏の事だった。
 王は、この時、27歳。王としての地位を確立するまでに、襲われたり毒殺されかけたり、血と裏切りの中を生きてきた王は、身体を病み、けれど、目は強い意志で周囲を圧倒していた。剣の腕以外ただの若造であった俺は、王と口を聞くことさえ倒れそうなほど、緊張していた。
 祖国の主君から王が俺を望んでいると聞いても、半信半疑だった。だって、やややつれているとはいえ、王は十分な美男子で、後宮にいる妻や愛人達も、美しい。何を好んで、男の、しかも、俺のような無骨な者を組み敷くというのか?王が、組み敷かれたいというのならともかく、そうでもないのなら、有り得ないと思った。
 けれど、王は俺を抱いた。
 女の経験はあっても、男との経験は全くなかった俺は、翻弄され正体なく王の意のままになった。あったのは嫌悪と快感。王は執拗で手慣れていて、身体はあっという間に陥落した。
 男妾。それが、俺の陰で呼ばれる名になった。
 王は、基本2人きりでは事に及ばない。かならず、何人か側に控えさせての情事は、暗殺予防の為だという。なのに、俺を閨に呼ぶ時だけは、2人きりだった。
 他国の妊娠する心配のない、護衛にもなる性欲処理の道具。そう言ったのは、第2夫人だった。それは、納得のいく説明だと思った。謀略に無縁な、無骨な武人。いつも安心して事に及べぬ王が、たまには思いっきり羽目を外したいのから、選ばれたのが、俺。そうでもなければ、義務のような情交しか他の者とはしない王が、俺とする時は激しく淫らになるのか、わからない。俺の身体で、王の触れていない部分など、ない。
 俺の身体は4年の歳月を掛けて、王のモノだった。
 それが、崩されたのはあっという間で、王から帰郷の命を受けた時、俺は何も感じなかった。
 ああ、これで、おしまいか、と、そう思った。
 たぶん、王は俺に飽きたのだろう。ずいぶん持った方だと、むしろ感心した。
 そして、帰郷した俺は、周囲の蔑むような視線にも、冷静に対処できた。
 傷つくわけがない。
 俺の心は麻痺していた。そうでもなければ、狂っていただろう。
 いつも側にいた。
 口づけられ、精を受けて・・・。
 4年だ。
 抱き人形だった年月は重かった。王の匂いのしない寝台も、たった1人の食事も、自分に命令を下す低い耳触りのよい声も。
 俺は、淡々と仕事をこなし、ただ、生きていた。
 そんな俺に、宰相が言った。このままでは姫君が殺されるかもしれない、ついては、王を説得し姫君を第4夫人にさせてほしいと。俺は、心の中で笑った。王が俺の頼みを聞くわけがない。飽きた玩具にしか過ぎないのだから。けれど、立場上拒否はできず、再び王の前に立った俺は、宰相からの要求を教えられたとおりに述べた。
「簡単なことだよ。私の側で、以前のように私に仕えなさい」
 王の口から洩れた言葉に、俺は愕然とした。
「それで、我が君を守って下さるのなら・・・」
 飽きられた玩具の俺を、もう1度手に入れる気にどうしてなったのだろう。
 けれど卑怯な俺は、主君の姫君を理由に、貴方の側にいようとする。
 浅ましいこの想いが、何と言うのかは分からないけれど・・・。

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あきゅろす。
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