武装天使
手段は選ばない3 (ゆりあ)
私は、二卵性の双子だった。
母は出産時に病死し、私は生まれ持った疾患でNICUから出られない。いくら助成があろうとも金食い虫の私の為にも激務の仕事を辞める訳にもいかない父は、親戚筋に健康な双子の弟である誉を養子に出した。人生の八割を病院で過ごした私と、乳児の頃養子に行った弟の接点は少なく、兄弟の情など育ちはしなかった。でも、何とはなしに節目節目で接触はあり、高校生の弟が通う全寮制の学園の存在は知っていた。
そこが、この学園だったのは、どんな偶然なのだろう。
私が本当の事を告げても、大概は頭が可笑しくなったと思われて終いだろう。けれど、肉親の情はないとはいえ、私の一生を知る弟ならば、説得できる自信はあった。事実、弟・・・誉は私の事を信じた。
「動画、保存しておいてね。保険だから」
『ああ、何かあったらあちこちにアップしてやる。顔出しで』
携帯の向こうで、誉が宣言する。
「その代わり、あの件は任せて」
『了解』
電話が切れ、私は満足そうに微笑んだ。
あの子は、今回協力を承諾した。肉親の情、ではなく自身の目的の為に、だ。
誉の養子先で起こったのは、ありがちな事だった。不妊だった筈の夫婦が、奇跡的に自然妊娠した。親戚筋という事もあり、邪険にされこそしなかったものの居づらくなった誉は全寮制のここを受験した。中等部の初年度何故か高等部のある人物に気に入られ、そして、自分の中の衝動に気が付く。
その人物、藤村大河は誉に可能性を見出したそうだ。
ここまでの逸材は、そうはいない。
君は、良い調教師になれる。
中学一年生にそう告げたぶっ飛んだ男は、卒業しても誉の師匠として接触を持ち続けた。
結果・・・外見平凡、中身凄腕調教師が誕生したのである。
この大河という人物は写真で見る限り、猛禽系の美丈夫だがド変態であり、何でも学園で見つけたパートナーを変態的に自分好みに調教したトンデモ君だったらしい。で、中学生は悪の道に染まり、高等部に上がる頃には秘密裏に倶楽部で調教の真似事をするにいたったらしい。これを誉が私に告白したのは、調教師というのはアンダーグランドな商売であり、何があっても可笑しくない。居なくなった時、何があったか知る身内が一人ぐらいいても良いだろう、との事だった。義両親にも、父にも告げられない誉が私を選んだ理由は、何故かは知らない。ともかく私は、誉のこういった事情を知ったまま死亡したのだった。
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