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武装天使
手段は選べない1(誉)
 最初、姉が甦ったと聞いて何の冗談かと思った。
 が、話せば分かる。信じるしかない。
 俺は、驚いてもそれが表面に出ないタイプだから、呆然としているうちに姉の計画は着々と進んだ。俺でさえ躊躇する事を、涼しい顔でする姉は、けれどそれが悪い事だなどと思ってもいない。
 怒りも恨みもない。
 正義も悪もない。
 姉は、ただ環境造りをしているだけだ。
 生きる為に、手段を選ばず・・・。
 姉の人生は、拷問にも等しいものだった。
 自由にならない身体で、薬漬けの日々。
 吐いて下して・・・少し良くなり気を抜けばまた元どうり。
 俺は、死んだ方がマシだと思う。
 けれど、姉はそもそも健康で動ける身体を持った事がないから、それがどんなに苦しくつらい事か、分かっていなかった。大の大人でも自ら死を選ぶような苦痛こそが姉の日常で、それが無い状態を想像できなかったのだろう。だからこそ姉は、あんな日々でも自殺もせずに正気でいられたのだろう。
 けれど、今、姉が得たのは健康な高校生男子の身体。やや脆弱ではあるけれども、初めて得たその身体に、姉は歓喜した。
 そして・・・生きる事に決めた。
 姉にしてみれば、やっている事がえげつないなどと分かりもしないのだろう。要は姉の今の身体に危害を加えかねない相手を排除したいだけで、壊したいなどと露ほども思っていないのだろう。ただ、牙を折り、怯えて蹲って欲しい、もう自分の身体に危害を加えないで欲しい、ただそれだけだ。
 姉にしてみれば、粗相やレイプで壊れる事こそ、理解できないのだろう。犬にレイプされたのを口外しない為に、言いなりになってくれれば良かったのだろう。それが、壊れた者と、自殺未遂。軟いと姉は憤慨していた。目の前で舌を噛まれようが冷静な姉の適切な処置と、力が入りきらず半端な状態だった事もあり、皆死にはしなかった。
「まあ、レイプ現場だけれど、された方が正気の者は皆口を噤んだし、可笑しくなった人の身内で体面を気にする、けれど、被害者に愛情のない人を選んで映像を渡したの。揉み消して下さったわ。それにね、冒頭に自分がリンチで呼び出したって場面も入れたもの」
 返り討ちにあったと、分かったろう。それに、訓練された犬、特殊なそれを手に入れられる相手に喧嘩を売る気も、無いのだろう。
「皆、代わりがいる人ばかりだもん」
 姉は悪びれない。
 副会長も、その取り巻きも、真摯に愛されていないやつらばかりだった。代えの効かない、壊れたら死に物狂いで原因を追及する者がいる相手は、どうやったか外したそうだ。情報源は、藤村大河、俺の師匠だ。
 俺の師匠と姉が知り合いなのには、驚いた。
 今回犬を借りたいという姉に、師匠を紹介した所、何と顔見知りだったらしい。話はしていたが、写真とか持ってる訳でもないから、師匠がそうとは知らなかったそうだ。
「集中治療室で、ね」
 藤村大河の庇護下に居る子供が、姉が集中治療室に居る時隣のベッドに居たらしい。生命の危機を脱するとともに、個室に移り、移動できるようになると同時に退院したようだと姉は言う。
 ただ、集中治療室のベッドの上、人工呼吸器を喉に装着された姉は、言葉もなく師匠を見据えたという。
 師匠は、その時の事を語られ、姉の乗り移りを信じた。まさかお前の姉とはね、と笑う師匠は尊敬の眼差しで姉を見た。あんなひどい状態で生き続け、今自分で生きようとする姉に、感心したと師匠は言う。助力するという師匠に、出世払いでお願いしますと姉は言ったものだった。
 

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あきゅろす。
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