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白騎士?黒騎士?
黒騎士レシュ4
「おうおう、そのように不満そうにして、愛想なしよの」
 扇を優雅にはためかせながら、デイデイアは笑う。言いながら瞳孔が縦長になるのを見て、レシュは呆れた。
「駄目ですよ、食べられるものはありません」
 敬語を崩さぬだけでも褒めてもらいたいと、レシュは思う。なにせ大蛇の獣人のデイデイアがこの塔を訪れる理由は、食事なのだ。
「そうかのそうかの?ほれそこのモノなど、この前もあったよの」
「ありましたが、目を離した隙にデイデイア様が食べてしまわれたそうで、観察が足りなかったそうです。絶対に食べないでください」
 一つ目に緑の身体を持つ大型の鼠の様な物体を名残惜しげに見るデイデイアに、レシュは慌てて釘を指す。獣人だからではなく、個体として悪食のデイデイアは、歪な生命体を見ると食いたくなるそうだ。デイデイアの訪問は拒否できない為、不要個体があれば差し出すし、重要個体は告げても守らねばならない。
「今日は何もないのかの?」
「あったら差し上げてます」
 処分して良い個体はない。
「ふうん・・・ならばそなたを食べてしまうかもしれんの」
 そう言って扇で口元を隠すと、意地の悪い笑いを浮かべる。
 が、それにレシュは苦笑いをしただけだった。
 人間にとって、獣人は恐怖の対象だ。獣化は負担が大きく、力弱きものだと行為そのものが出来ない。中には、獣人であろうとも獣化した事がないまま死す者も居る。獣化できれば、特性は獣そのものなので理性で抑えはするが、五種族すべて肉食である。
 己を喰う可能性のある種族との、交わりは人にはできない。今までもそれが原因で争いが起こり、鎖国になってからの方が平和なのだ。レシュとて例外ではなく、デイデイアを前にすると、身体が震える。
「まあ、の。今回は止めておくがの。わらわとて、そう何度も獣化しては身が持たぬしの」
「持ちませんか?」
「持たぬぞえ。獣化を際限のうしても平気なのは、獣王たるザイルのみよ。本に羨ましき事」
「・・・獣化がそのように重要なのでしょうか?」
 レシュの疑問に、デイデイアは意味ありげに微笑むと扇を閉じた。
「獣神が神のこの地でそれを問うかえ?まあの、人には分からぬであろう?獣化すると心が沸きたつ。そして、獣人であれば、獣化したモノを見れば、心がざわめく。故に、悲劇も起こるがの」
「悲劇?」
「悲劇よ。儀式を行い獣王となれば、無限に獣化する力を得る。その獣王と交わった事があれば、獣化に対する制限が緩む。しかし獣王の体液は毒を含む。分かるかの?」
「いえ、皆目」
 デイデイアはくすくすと笑う。
「獣化そのものが、半分人の身には過ぎたるものなのじゃよ。故に獣化には負担がかかるし、人より獣の部分の多くなった獣王との交わりは、毒であると同時に獣化を促進させる術じゃ。次代の王の為とはいえ、毒物耐性があれど獣王と交わるのは苦痛を孕む。そのような得るべきものがあるからこそ、我々は妻になるのじゃよ」
「・・・その様な事、私に言っても?」
「他人行儀じゃの。私ではなく俺、敬語もいらぬぞよ。この国の有り様も知らず身体を暴かれるのは如何なものかと、わらわは思う。別段、秘密の事でもない。何でも教えようぞ」
 デイデイアは、饒舌に話し続けた。

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あきゅろす。
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