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申し訳ない
初めての体験
 かのんが童貞だということは、良太のせいでばれたことがある。もはや秘密の事柄でもないが、吹聴したくもなかった。ただ、興奮状態である同室者の気を引けるかと思ったのである。それは成功し、同室者は苦笑さえ浮かべている。まあ、かのんが地味にダメージを受けたのは、ご愛敬である。
「なあ、その子って、とんでもないガタイの良い子とか?」
「見るか、写メ?」
 かのんが携帯を取り出すと、同室者は頷いた。
「近くに行くからな」
 かのんはゆっくりと同室者に歩み寄った。携帯を持ち上げ、防水で良かったなと思いながらすももの写真を見せた。
「美人だな」
「本人に言ったら喜ぶよ。ちなみに来週の日曜に交流戦がある。固定ファンもいるから行ってみれば。男前な性格だから、びっくりするぜ」
 腰まである黒髪ストレートの美少女は、180オーバーの先輩から手編みセーターをもらったり、見た目やくざの追っかけがいたりするが、それらに「ありがとー」とにこやかに答えるナイロンザイルの神経の持ち主だ。
 かのんはフェンスごしに、、そっと同室者の手に触れた。同室者はビクッとと震えた後、弾かれた様に顔をあげた。金網越しのかのんの手は、燃えるように熱かった。
「一つ言っておく」
 かのんは、ほほ笑んだ。
「ここは、外とは違う。それは外部性であるお前が一番よくわかるだろう。ここで上手くいかなくても、外でそうだとは限らない。むしろ、ここで上手くやっている人間の方が、外では駄目かもしれない。ここであったことは、門外不出。なかったことにしても、良いと思う。忘れろとは言わないが、忘れてしまっても罪ではない」
 同室者は、少し考え込だ。かのんの手は熱くて、吐く息は白い。
「熱あるよ・・・」
「ああ。風邪引いているからな。できれば、着替えてベットに入りたいかな。でも、食欲はあるんだ。カップラーメンの、赤いきつね、食べないか?ここに置いてなくて、家に帰った時に持ってきた。特別に分けてやろう」
「俺は、緑のたぬき派だ」
「緑のたぬきはないな。じゃあ特別に俺の駄菓子コレクションから好きな物をやろう。ジャンクな味に飢えてるんじゃないか?」
 言いながら、かのんは下を向いた。
「ごめん。マジにもう駄目だわ」
 体から力が抜けて、かのんは、膝を着いた。
「常盤!!」
 目の前がぼやけ、全身が震え出す。
「知ってるか、マクドナルドで期間限定のハンバーガーでるんだぜ。ミスドの100円セールも今やってる。モスのシェイクも飲みてーな。ここにいると、懐かしくなるよな…」
 コンクリートの感触が冷たい。もう、声さえまともには出ない。怒鳴り声と、自分を抱き上げる腕を感じながら、かのんは意識を失った。
 次に目覚めた時は、病院にいた。肺炎を併発し、喉が腫れすぎで、気道閉鎖を起こしかけていると説明され、問答無用で入院となった。入院など初めての体験で、微妙に緊張してしまった。
 次の日見舞いに来た担任から、同室者は、かのんが倒れると慌ててフェンスを乗り越え、抱き上げようとしたところを、取り押さえられたのだと知った。とりあえず、実家に帰したと聞き、かのんは静かに目を閉じた。
 結局、同室者はそのまま休学し、学校からの紹介で編入して行ったのだが、それはまた後の話である。
 そして、2年後に、かのん宛てに届いた手紙には、女の子とのプリクラが貼ってあったことも・・。

 





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