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申し訳ない
奇跡の女帝
 かのんは風邪気味だった。今日は気温も低く、体を濡らす霧雨のせいで、寒気がしてきた。これは確実に悪化するなと、かのんは覚悟した。
 同室者はぽつぽつと話しだした。双子が来るとは思わなくとも、自分に起きた出来事を話してしまいたい気持ちもあったのだろう。
 家を出ての寮生活は寂しく、庶民だということを馬鹿にされているような環境はつらかった。部活は忙しかったが、少しでも知り合いが欲しくて親衛隊に入ろうと思った。でも、どうせ入るなら可愛い人のが良いと思い、深い考えもなく双子の親衛隊に入ったのである。まさか、自分にセフレの誘いがあるとは思いもしなかった。セフレの声かけを羨ましがられて、得意になった。興味半分に双子のもとに行くと、熱烈な歓迎を受け、こんな綺麗な人達がと、感動さえ覚えた。女性経験はあったが、双子とのそれは今までに経験したことのない快楽をもたらし、夢中になった。乞われるまま、タチだけでなくネコになっても、後悔はなかった。同室者は夢中になり、天にも昇る心地だったが、蜜月はあっという間に終わった。飽きられて、見向きもされなくなったのだ。
「馬鹿みたいだ」
 同室者は語り終えて、暗く呟いた。
「とりあえず、木村様達とのことはともかく、童貞の身としては、コメントの困る」
 かのんの答えに、同室者だけではなく教師まで驚いている。確かにこの学園の性は乱れているだろうけれども、高1で童貞が一般的にそこまで珍しがられるものでもないだろうと、かのんは思う。
「婚約者がいるって」
「いるけど婚前交渉はできないんだ。かといって、他で童貞捨てたら殺される」
「どんな女だよ」
「幼馴染で、隠し事が効かない間柄なのと、空手の黒帯で、奇跡の女帝という二つ名を持つ女だよ」
「奇跡の女帝?」
「かなり大きな流派なんだよ。2年前の全国大会、中学生の部で、優勝したんだが、中学生までは男女混合なせいか、女が全国優勝するのは初だったんだ。だから、奇跡の女帝。俺なんか、蹴り一つで重症患者だろうな」
 かのんは、自嘲気味に言った。
「それは、大変だな」
「格闘番組見てるだろう。蹴り技なんか、出てくるの全部できるし、やってみてくれると、音がするんだぜ。空気を切り裂く音っていうのが。おまけに、中学時代、なんでか柔道部に入って、高校ではやめたけれど、投げ技や寝技までマスターしたんだ。自分より体躯のいい男に痴漢された時に、立ち技だけでは不安でしょって。どんな痴漢だよ」
 同室者は、毒気を抜かれた顔になった。
「じゃあ、ここでもそういったことは、禁止されているわけか」
「男に情けは無用と言っていたよ。まあ、道場の師範が厳しい人で、基本は私闘禁止らしいけれど。俺が、男に走ったら、相手共々30分だけリンチねって。確実に、死ぬね」
「ここに、乗り込んでくるのか?」
「来るでしょ。運動神経良いから、塀ぐらい乗り越えてくるだろうし、ぶち切れたら不法侵入なんか気にしないだろうし。性格的に、やると言ったらやる人だから。何人がかりで抑え込めば止まるかわからないよ」
 
 


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あきゅろす。
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