申し訳ない
双子の戯れ
寒い。寒い。寒い。
でも、目を反らしてはいけない。膝を着いてはいけない。ひと言なりとも、聞き洩らしてはいけない。意識を失うなどもってのほか。
例え、雨が降り続けようとも、風邪が悪化して体がやばそうだとしても、だ。
常盤かのん、高校1年生。
ただ今、屋上から飛び降りかけている同室者を説得中。
高等部に上がったかのんは、寮の同室者も変わって、それなりに張り切っていた。同室者は、陸上の特待生で、高校からの外部生。いちいち、驚くその姿に、ここはやっぱり特殊なんだなーと感心したものだった。
もちろんノンケの同室者は、しかし、一月もしないうちに親衛隊に入ると言い出した。かのんは、良太によって発足された恭介の親衛隊にすでに引きずり込まれ、忙しすぎて同室者の変化に気がつかなかった。何せ、良太以下キャーキャー言うのと外見をを磨くの以外役に立たないメンツが多い中、このままでは恭介の人気もあり、親衛隊は肥大するだけ肥大して、えらいことになりそうだったからだ。せめて、入隊時に面談して、隊員名簿ぐらいは作らなければならなかった。
というわけで、気がついたときには、同室者は木村椿(きむらつばき)と、楓(かえで)という性悪双子の親衛隊に入り、おまけにセフレになっていた。
おまえ、ノンケだったんだろうとか、え?3Pとか、タチ?ネコ?とか、突っ込みどころはたくさんあったが、それでも幸せならよかった。しかし、同室者はあっという間に捨てられた。
で、この有り様だ。
さすがに校舎の屋上から飛び降りようとした同室者に、教師たちは大騒ぎである。同室者は、双子を呼ぶように騒いだが、この学園でも家柄特上クラスの性悪双子は「「めんどくさーい」」と、一言。だらしない教師達に、それ以上何ができようか。飛び降りかけているのは、特待生枠とはいえ、一般庶民のしかもこの前の記録会では成績が伸びなかった期待薄な生徒である。
すごすご教室から出ようとした教師に、一人の男が声をかけた。皇恭介。高等部に上がったばかりで、今はフリーだが、秋の現生徒会引退に伴い生徒会入りが確実だと言われている男。
「俺様の親衛隊隊員が同室の筈だ。そいつを連れて行け」
教師は、とりあえず、かのんを呼びに行った。同室とはいえ、忙しさであまり親しく口をきいたこともない相手である。戸惑うかのんは携帯に、<がんばれ。恭より>と、メールが入っているのを確認し、腹をくくった。何ができるのか、恭介が何のつもりかは分からなかったが、あの俺様がやれというのだ。
かのんは、屋上に上がった。
同室者は、屋上のフェンスの向こうにいた。霧雨の中、死んだ魚の目でかのんを見る同室者は、明らかに痩せていた。これでは、いい記録の出ようはずもなく、特待生という立場も怪しくなりつつある男の絶望をかのんは思った。
「なんで常盤が」
かのんは、とりあえず男を見据えた。こういう時目を反らさない方が良いのではないかと思い、瞬きさえあまりしないように緊張して、かのんは口を開いた。
「同室者だから、とりあえず呼ばれた」
「先生ー、木村様はー、椿様は?楓様は?」
あからさまに目を反らす教師の使えなさに、かのんは舌打ちした。せめて、ポーカーフェイスぐらいしてほしかった。
「来てくれないんだー。俺、死ぬのに、来てさえくれないんだー」
「死ぬ、死ぬ言っているが、なんで、そうなったか皆目分からない。ノンケのお前に何があったんだ?外部生なのにほったらかしていた俺も、悪かった。こんな環境で、お前がこのまま死んだら訳もわからず、罪悪感に押し潰されそうだ。木村様達が来るまで、俺に話してくれないか?」
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