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申し訳ない
番外編2 隊長の制裁その1
 嘔吐、頭痛、眩暈、血圧低下。
 その日、学園から運ばれた生徒達は、同じような症状を呈し、5名が入院する騒ぎとなった。原因は親衛隊の制裁による。

「制裁だよ!」
 食堂で高らかに言い放つと、山田良太は、恭介の写真を隠し撮りしてこづかい稼ぎをしていると言う、男の前に立った。周囲が、ニヤニヤする中、食事中のやや暗い印象の男の前には、10人の親衛隊員が居る。何故か、皆で鳴子を持っている。そして、流れ出るヒップホップの音楽。あわせて踊り出す親衛隊メンバーは一糸乱れぬ見事な鳴子さばき。
「1年C組、田村稜。生徒会長皇恭介様の御尊顔で私腹を肥やすとは、万死に値する愚行である」
「「「「「愚行であるっ!」」」」」
 良太の台詞を復唱する、親衛隊員達。
「我ら生徒会長親衛隊は、ここに宣言する」
「「「「「宣言する!」」」」」
 激しくなる鳴子のリズムと、踊り。もともと見目麗しい親衛隊員達が、息を弾ませ踊り狂う姿は、見事なものだ。
「「「「「これ以上の、狼藉は、我ら全てを敵にするものと心得よ!!死して、屍、拾う者なし!!」」」」」」
 唐突に動きは止まり、静寂が訪れる。
「以上、生徒会長親衛隊、隊長山田良太。散っ!!」
 バッと散る親衛隊員。惜しみない拍手と、ガタガタとテーブルを移動する音。どうやら踊りやすいように、近くの者はテーブルを寄せてくれていたらしい。
 その様子を2階の特別席から見ていたのは、南以外の生徒会の面々である。
「YOSAKOIだね」
 笑いを堪える本間俊哉。
「隊長、あんな喋り方できたんだ。大江戸捜査網の、だよね。死してって・・・。隠密?恭介さんの親衛隊って、命がけなの?」
 拍手しながら、楽しそうな昴。
「おまえ、その外見で時代劇好きだもんな・・。俺は何のことかわからなかったよ。狼藉って、こういう時に使うもんなんでしょうかね?」
 溜め息をつく、かのん。
「俺様の為と言うより、踊りたいだけだろ」
 言いきる恭介。
 かのんが書記として生徒会入りした後、副隊長になった人物は、父親が芸能プロデュサーだった。生活とはエンターテインメントであると言いきる男と楽しきゃいい馬鹿ボンに率いられた親衛隊は、何故か、制裁と言う名の呼び出しで、芸を披露しだした。かのんが知っているだけでも、ゴスペル隊、マジック隊、男子十二楽房、アクロバット隊、そして今回のYOSAKOI隊があり、日々芸の研鑽に励んでいる。以前は、校舎裏で披露されていたそれが、学園生の希望により、校舎内で行われることになるのに、時間はかからなかった。
「まあ、これだけ目立ったら、陰で盗撮もしにくくなるでしょうし、有効ですけどね」
 恭介はそれほど気に病んでいないが、相手は悪質な盗撮で、風紀にも苦情が行っている人物である。今回のことで、食堂の生徒に顔を覚えられ、おかしな動きもしばらくはできまい。
 また、今回の宣言を無視して行いを改めなかった場合、みっちりプレゼント攻撃が展開される。昼休み、アルミでできた巨大弁当箱を持った良太を先頭に、親衛隊員が問題生徒の教室に集まり、本人が居ようと居るまいとに関わらず、机の上に置いた弁当箱に、一個ずつ満杯になるまで物を詰めていく。そして、それを置いていくのを改心するまで繰り返すのだ。ウズラの卵や、アポロチョコ、ビー玉にバンドエイドなど、毎日無言で繰り返されるそれは、例えその場に居なくても、連日ともなればかなりダメージを受ける。まして、いた場合、「プレゼントです」と呟いて一個一個入れられていくそのシュールさは筆舌に尽くしがたい。これは時間がかかる為、廊下で行儀悪くおにぎりなど齧りながら昼休み一杯を掛けて行われる。例え、教室に誰もいなくても、端折ったりせずに正確に行われるその行為は、下手なホラーより恐ろしい。
 そんな訳で、恭介の親衛隊は、全校生徒に好まれ、恐れられ、親衛隊とは自分が楽しめてこそとの、隊則を忠実に再現する集団となった。なにせ、芸を披露しないまでも裏方に従事する者もいて、それぞれがお祭り騒ぎなのだ。


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