[携帯モード] [URL送信]

申し訳ない
副隊長の憂鬱
 常盤かのん(ときわかのん)は、ため息をついた。
 生徒会長親衛隊副隊長という立場の彼は連日の、トラブルに眩暈がしそうだった。ゴールデンウィーク明けに、編入生が来た。これが曲者で、もさもさのまりものような髪と瓶底眼鏡の、外見オタク、中身強気の悪目立ちしまくりのトラブルメーカー。そして、美形ホイホイ。
 編入当日に、副会長の笑顔が胡散臭いと指摘し、気に入られてキス。双子の会計を見分けて懐かれ、無口書記にも懐かれた。クラスメートの爽やか青年に、同室の一匹狼不良ともお友達。そして、この学園一の美形生徒会長にも食堂でキスされ、挙句に本気になった会長は親衛隊に大量にいたセフレを切るという暴挙に出て、ただいま隊内阿鼻叫喚中である。そうでなくても、制裁がどうのと大騒ぎだったのに。
「溜め息つくと、幸せが逃げるよなー」
 テーブルの上の写真は、隊で配られる会長のお宝写真である。野性的な美貌は、完璧すぎて羨ましくもならない。かのんは平凡な容姿、まあまあの頭脳、自分の身を守れるぐらいの運動神経の、どこにでもいるような男だ。普通なら副隊長などになるタイプではないが、優しげなお兄さんタイプ言うことで、隊内のトラぶった者たちの仲裁に駆り出されたり、真面目な性格から事務処理に勤しんだりしているうちに、いつの間にか隊での信頼を得る立場になっていた。また、間違っても会長がベットに呼び込まないタイプだということも、むしろ牽制し合っている隊員間の調整役としては丁度よかった。
本人は知らないが、かのんは有名人である。抱かれたい抱きたいランクには、かすりもしないが、身内になったら幸せになれそうな人ランキングがあれば、1位だろうというのがかのんを知る人の共通認識である。実際、自分の姉や妹を紹介しようというものもいるが、かのんは丁重に断っている。いわく、自分はノンケで婚約者がいると。
 生徒会長の、バイでフェロモンバリバリの、絶倫野郎の親衛隊副隊長が、ノンケなのだ。しかし、それは事実。かのんは、下半身の緩さは全く尊敬できない会長を、純粋に能力的に尊敬している。俺様ではあるが、こんな面倒くさい学園の権力もある代わりに馬車馬のごとく行事ごとに働かなければならない面倒な立場を、勤めあげているのを、手助けしたいだけなのだ。「手伝ってほしい」と、頭を下げた姿をかのんは忘れられなかった。
 そんなことをつらつら考えていたかのんは、部屋のチャイムに、立ち上がった。のぞき穴からみると、そこには、もさもさのまりもがいた。
 いつもは糸のような細い眼を極限まで見開いて、かのんは扉を開放し、外にいたまりもの頭をわしづかみにして室内に引きずり込んだ。
 まりもの正体は、柊昴(ひいらぎすばる)という。
 

[*前へ][次へ#]

4/72ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!