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短編
少しの狂気と微かな優しさ





少しの狂気と微かな優しさ





煙管の煙が視界を曇らす。


この男に会ったのは偶然だった。




「ヅラぁ、お前死にてぇのか?」

「…っは、そんな訳、あるはずがないだろ、」




血まみれの桂を前に高杉は薄笑いを浮かべククっと喉を鳴らした。
じっとりと着物を汚していく血。
高杉はその香りに酔ったように近づいてきた。




「…っ!?」



唐突に重ねられた唇。
目を見開き、驚きを隠しもしない桂を高杉も瞳を閉じることなく眺めた。
近すぎる互いの焦点がずれる。


ほとんど気力だけで立っていた桂の力が抜けきり、ずるっとその場に崩れ落ちた。
抱き留めることもなく、高杉の目がその姿を追う。



「は…、」



滴る汗、血、乱れた呼吸、着物。
女などよりよっぽど綺麗な顔が歪むのは高杉の嗜虐心を煽った。
それでも放っておけば桂は死ぬ。
そんなことは出来なかった。



「助けてやろうか?」

「…ああ…」



乱れることのない桂の黒い髪を指ですくう。
桂は相変わらず掴めない高杉の行動に首をひねりつつも、いい加減自分も限界だったので素直に返事する。




「珍しく素直じゃねえか…意地を張る元気なんざねえってか?」

「あ、るように、見える…か?」

「見えねぇなぁ」



そう言った後、その細身の体のどこからそんな力が出てくるのか、軽々と桂を抱きあげた。



「勝手に死のうとしてんじゃねぇよ」



再び唇を奪いながらほんの少しの怒気を含んだ声が桂の耳を打つ。
お前の方がよっぽど素直じゃない。
心の中でそっと呟きながら桂は安心して目を閉じた。





終わり

≫桂を血まみれにしたのは誰なんだろう。

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