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ジュエル・キス
8
(こういう時は、カッコイイんだけどな)

普段は横暴で、俺のことを下僕としか思っていないような兄貴だけど、仕事は絶対に妥協しない。
その姿は単純にカッコイイと思うし尊敬もするが、いつもとの落差があり過ぎだ。

いくら開店前で忙しいとはいえ、意地の悪い兄貴が、このまま何もしないなんてありえない。
その予感は的中した。


「で、慎吾、無事治まったのか?」

「は?」

唐突に訊かれて、一瞬なんのことかわからなかった。

「そこ」

目線で身体の中心を指され、思わずトレイを落としかけた。
意地悪く笑われ、羞恥で身体が熱くなる。
せっかく忘れていたのに、兄貴にキスされたことまで思い出して、最悪の気分だ。

(そんなに溜まっていたのか?)

そう思わないとやってられない。

いくら上手かったとはいえ、相手はあの兄貴だぞ?

俺をからかうことに生きがいを感じているとしか思えない相手にキスされて感じるなんて、俺はマゾか?
……いや、違う。


「癖になったんなら、またやってやろうか?」

「……本当に、最低だなっ!」

追い打ちをかける兄貴から、出来上がったばかりのケーキをぶん取って俺は売り場に逃げた。

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