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宝箱(小説)
羽音あい様より




世界が闇に飲み込まれほぼ全ての人間が眠りについた夜。

不気味な雰囲気に包まれたある宿屋の一室は明かりが付けられていないにもかかわらず微かな光を放っていた。



「…っ、は、…」




乱れた呼吸をしながらその部屋の主は闇に照らされたナイフにその翡翠の瞳を向ける。


そのナイフは先程から炎にかざしていた為か持つ部分以外の金属部分が赤く染まり異様な熱気を放っていた。


今からこの熱を自分の肌に接触させるということを考えると知らず身体が、指が震えてしょうがない。


手の中からこぼれ落ちそうになるナイフを近くにあった黒い紐で無理矢理手の平に括りつける。

これならば間違って落ちることはないだろうと頷く。



そして最後の仕上げと紐をきつく締めて行く中でふとこの行為を引き延ばしにしている自分に気付きつい嘲笑ってしまう。


いくら痛みに慣れたからといえその恐怖が拭える訳でもない。

今更ながら感じる恐怖と痛みに引き攣る顔をなんとか繕いながら早く終わらせようと心を決める。



「…、っふ、」



握り締めたナイフの先をいつも剥き出しにしている自分の腹に近付けて一息をつく。



もはや震えて上手く目標がつかないことは承知の上で一気に身体に密着させる。







「っ、あ゛あああ゛あ!!!」



ナイフを身体に密着させた瞬間今まで感じたことのない熱さと痛みが同時にやってきて我慢できずに叫び声をあげてしまう。




「…、ぁ、っぅ…」



唇を噛み締めてナイフを移動させると身体には血に塗れた赤い線が浮かび再びその上からナイフで傷をつける。



「つ…、…くぁ、」



最初の痛みで慣れたのか微かに薄れた痛みの中にもやはり相当の痛みが存在していて。

さっき唇を噛み締めた時に切れてそこから流れ出る血と身体の血が混ざって辺りに鮮やかな血が広がる。



「か、はっ…」



ようやく身体から熱したナイフを離し投げるとそのままベットに身体を預ける。


「っは、……は…」



乱れた呼吸を何とかしようと傷ついていない胸の辺りを手の平で握り締めるがそれで何かが変わる訳ではなく呼吸は苦しいままだった。



「…、これ、でいい…」




自らの身体に浮かび上がった赤い十字の傷を確かめて笑う。


今まで奪ってきた命、レプリカやオリジナルと言う隔てもなくただ人という生き物を無慈悲に殺してきた自分には消えることのない刻印が必要だったのだ。



殺した者を忘れないように。


この傷を視界に入れた瞬間彼らのことが思い出せるように。




「…はは、刻印、か。……俺には……お似合いだな」



いつの間にか月の光で明るくなってきた空に視線をやりながらふらつく足取りで部屋の扉へと足を向けた。









「おい、本当にレプリカがこの辺りにいるのか?」



後ろにいるはずの仲間に視線を向けずにアッシュは月に照らされた町を眺める。


「私の情報に間違いがなければいるはずなんですがねぇ」



いつも通りの薄い笑みを浮かべながらそう呟くジェイドにアッシュは眉を潜めるが笑みを浮かべたジェイドの顔に微かな緊張と罪悪感が混ざったような表情が浮かんだことに目を見開いた。


ジェイドの様子に気付いていたのか同じような表情をしてこちらを見てくるガイを見て彼らもルークに何かしら罪悪感を感じるのだろうと頷く。




(まあ、俺も人のことは言えないが)




こんな風に思っている自分もあの朱色の子供を酷く傷つけた罪悪感で酷い顔をしているんだろうなと瞳を細める。



「…行くぞ」




そのまま何を言うでもなく足を進めると口を開くことなく彼らも足を進める。




月に照らされているとはいえ一歩間違えればその闇の中に吸い込まれそうな錯覚を起こしかねない辺りに広がる暗闇にアッシュは見慣れた朱色が映るのを見逃さなかった。




「…、レプリカ!?」




大きめな声でそれを止めようと叫ぶと後ろにいた二人もその方向へ視線を向ける。



「、ち…」



三人の視線をまともに受けたルークはいつも着ていたはずの黒い外装ではなく身体を覆い隠すように厚いコートを身に纏いながら短く舌打ちを零す。




そのいつもではありえない格好にアッシュは首を傾げるがやっと居場所が分かった目の前のルークを逃がす訳にはいかないと瞬間手を伸ばす。




「レプリカ!!」



「、っあ、!」




手を掴んで自分の方向へ引き寄せようとしたその時、ルークから発っせられた呻きにアッシュは掴んでいた手の力を瞬間的に緩める。




「レプリカ!?どうした!」




顔を歪ませながらその場にうずくまるルークに心配そうに駆け寄った三人はルークが押さえている身体を覗き込んで一瞬身体を強張らせた。



「この…血は一体…?」




ジェイドがうずくまったルークの周りに広がる血に同じ色をした瞳を見開かせるて呟くとガイは抵抗するルークを無理矢理押さえて着ていたコートを剥ぎ取る。



「…、てめぇら、何しやがる…」



掠れた声で言い放つルークの身体を確かめた三人は知らず口を閉じた。



いつも身に付けていた黒い外装と対称的に白く傷一つなかったその身体には赤く染まった痛々しい十字の傷が刻まれ夥しい程の血が流れていたのだから。




「おい眼鏡…早く傷の治療をしやがれ!!」





アッシュは状況を把握しようしていたジェイドに声をあげるとそれに我に返ったジェイドはすぐに傷を確かめようとルークに手を伸ばす。




「とにかく傷の様子を見て…」




「俺、に、触るなぁぁ!!」




「ルーク!!?」




ジェイドの手が傷口に触れた瞬間勢いよく飛びのいたルークはいまだ呆然としている三人に鈍く光る瞳を向けて口を開く。




「これに、触るな、…」



「何を言っているのですか!早く手当をしないと傷が残って…」



「…それで、いい」




ジェイドの言葉を聞いて深い笑みを零す。



この傷は自分を戒める為に、彼らを忘れない為に付けた傷。



消えてしまっては困ると三人に聞こえない声で呟いたルークはふらつく足に力を込めてその場から走り出した。



「な、!?」



「レプリカ!!」




困惑した声が走り去る背中に掛けられるがけして振り向くことなく素早く闇に溶け込む。



その後を必死に探した三人だったが結局ルークを見つけ出すことは出来なかった。











「…、は、ぁ」




身体に十字の傷を付けてから既に一ヶ月。





いまだ疼くように痛み続ける傷にルークは寂れた宿の一室で苦痛の声を零していた。




(傷口に、細菌か…何、か入ったか、?)






ろくな手当もしなかったこの状態ならばそれもしょうがないとルークは近くにあった白いシーツを力の限り強く握った。







「…もっ、と、もっと…だ、」






まだ足りない。



今まで刈り取った命の重み。




彼らの命を奪い取った自分にこの程度の痛みだけでは許されない。





「もっと、」







許されないというのは分かっている。





だからもっと痛みを。





彼らを忘れない為に付けたこの刻印に痛みを。






「こ、の刻印に、途絶え、ることのない…、苦痛を…」









それを背負い再び血に濡れた道を歩く為に。



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羽音あいさんのサイトから茶会で出たネタ小説をこっそり強奪してきました←

自傷行為大好きですv

実は誰よりも命を大切に思ってるルークですね…
ルークは誰よりも優しいんだと思います!



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あきゅろす。
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