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宝箱(小説)
相互記念 帝様より


「―ったく、これだから温室育ちのお坊ちゃんは……」

隣で自分を侮辱する言葉を耳にしながら俺はこの清々しいほどに青い空を眺めた

(俺はまた、闇に溺れて行くのか…)

今だけは、この青い空さえも汚れて見える







『何だ、また来たのか?』

声の後に続いて俺は眼を開く

「…悪いかよ」

夢の中で俺はもぅ一人の俺に会う
今日が初めてじゃない
今までにも数え切れない程、コイツを見て来た

闇の中―コイツ…いや<ルーク>は幾つも立てられた赤十字の一つに凭れかかって、いつものように俺を見つめていた

濃紫に曇った空の下に無造作に突き立てられた赤十字には俺が殺してしまった人達の名前が刻まれ、遺品や包帯が十字に掛けられている

前と変わらない
俺はそれに少し安堵しながらもまた、<ルーク>を頼ってしまっている

『悪い訳ねぇだろ?また会えて嬉しいぜ』

<ルーク>は立ち上がりニコリと笑った
その笑顔は昔の自分そのままで、まだこんな顔が出来る彼を羨ましいと思う

『…で、今日は何があったんだ?』

「仲間に捨てられるのが怖くなってさ…」

『また、アイツらかよ』

ルークが悲しそうに俯くのを見て<ルーク>はギリッと歯を噛み締めた

『何時も側にいるのに、ルークが傷付いてる事にも気付いてやれねーのかよアイツらは…』

「みんなが悪い訳じゃないんだ。悪いのは全部、俺だからさ…」

『あんま、自分を攻めんなってっ!』

「けど……」

今にも泣き出しそうな眼の前の子供の肩をポンと叩くと言葉を掛ける

『何時までも落ち込んでても始まらねぇだろ?元気出せって!』

「ゴメン…いつもありがとな…」

『いいって!ほら、そろそろ朝だぜ』

「うん。またなルーク」

ルークはまるで幻の様に姿を消した
彼が消えてもなお<ルーク>はその場を動こうとせずただルークがいた場所を見つめていた

『"またな"ルーク……』

俺は、何も残せずに消滅て逝くんだな

脳裏に焼き付いて離れないレプリカの死の末路
綺麗過ぎるほど綺麗な光を放って粒子へと変わるその時を想像してルークの身体が小刻みに震える
それを隠すように両肩を抱きすくめると心配したようにガイが近付いて来た

「おい、ルーク。大丈夫か?顔色悪いぜ…?」

まただ…また迷惑かけてる

すっかり慣れた造り笑顔を振る舞うが、表情とは裏腹に胸は締め付けられるように痛い

「大丈夫だよ」

「本当か…?辛くなったら絶対に言うんだぞ?」

「わーってるよ!っほら、みんなが待ってるぜ」

そうやって仲間を騙して、欺いて、
そうして俺は生きているんだ……

……なぜ?

何故、俺は生きているんだろう
 








『今日は、どうしたんだ?』

「ルーク………」

ポツリと自分の名前を呼ぶルークに身体を貸すと弱々しくしがみつく
背中に腕を回して撫でてやると下から鳴咽が聞こえて来た

「俺っ…俺…もう、疲れたよっ」

胸に顔を埋めて泣きじゃくる自分
ここまで追い込んだ奴らに怒りが沸々と沸いてくる

「こんなのイヤだ…もう…イヤなんだ…」

『ルーク…』

「助けてよぉ…ッ…!」
 
<ルーク>は抱きしめる腕に力を篭めて距離を積める
だが、ルークに見えない位置で口角が上がった

『…辛かったよな。もう無理なんてしなくてもいいんだ…』

「…本当に?」

『あぁ…俺が護ってやるからよ。少し休んで、また頑張ればいいからさ』

歪んだ笑顔からとは思えないほどに優しい声色
ルークは心の傷が癒されていくような言葉に微笑んだ

「うん。俺、頑張るから…今は少しだけ…」

『おやすみ…ルーク』
 
<ルーク>が柔らかく微笑めば、ルークは安心したように眠りについた
腕の中で眠る朱毛の眼は泣き腫らした跡と頬に残る涙の跡
涙の跡を愛おしそうに拭うとルークを床に横たえると立ち上がる

『ゆっくり休めよな…ルーク?』

ニヤリと笑ったその彼の顔は狂気に歪んでいた



「……ーク…ルーク!…起きなさいっ!」

いくら身体を揺すって声を掛けても瞼が開かれる気配は微塵もない
ジェイドがふぅと息をつくと横で明らかに嫌そうな顔をしているアニス

「起きない奴なんてほっといて先に行きましょうよー大佐〜」

「アニス♪これでもルークは仲間ですよ?」

「はぅあ!大佐からそんな言葉が出るなんて以外ですぅ〜」

内心毒づきながら何時もと変わらない態度をとる
すると、後ろから声が飛んだ

「しかし、困りましたわね」

「ここまで、しても起きないなんて今まで無かったのに…」

「どうしちゃったのかしら?」

「さぁね〜、どうせ良い夢でも見ちゃってんじゃないの?」

仲間全員がルークの部屋に集まり、この状況を話合っていた
アニスは怒りから頬を膨らませてベットに眠る朱毛に眼をやる

(ほんっと、ムカつく……)

ずっと眠り続けているルークを見ていると漸く瞼が上がる
ゆっくりと上体を起こすと瞬きを繰り返した後、自分を睨んでいた眼と合う

「あ!やっと起きたぁ!!ほんっとアンタってウザいよねっ!!」

今まで溜まっていた怒りをぶつける
ルークはそれを呆然と見ているだけで、何も言って来ない
それが、またアニスを煽り暴言が強くなる
仲間達は事のいきさつが心配になり、アニスを止めようとする

「アニスっ!言い過ぎは…」

「人に迷惑かけてるって自覚ないんじゃないのぉ?アンタなんていなくても別に………」

『うるせぇな…』

隣に立て掛けられた剣を鞘から抜くと白銀の刃が煌めく
それと同時に少女の首に一線の横線が入った

「……え?」

傾くと床にゴロリと落ちる
身体は首から鮮血を噴き出しながらゆっくりと倒れると辺りに悲鳴が広がった



「…ぁ、ぁあ…ッ!な、何して……」

ティアは自分の足元に落ちたものから眼が離せないまま小さく呟く
いつもの平静さを失い口元を抑えて小刻みに震えていた彼女を<ルーク>は躊躇なく腹部に刃が突き刺した

『ははっ!』

夢が実現する喜びから声をあげて笑うと剣を勢いよく引き抜く
血液が服だけではなく顔や手足を汚すが気にする事などない

「やめなさい!!」

『?』

気付けば首には槍が添えられていた
あの状況で咄嗟に武器を構える所は流石死霊使いだ

「…ガイ!」

「ぇ…」

ジェイドは青い顔のまま立ち尽くしていたガイをこちらに呼び戻すとしっかりしなさいと声を掛ける
ガイは今だに信じれないのか眼を見開いたまま固まる

「ルークッ!!貴方は何をしたのか分かっているのですか!?」

あのジェイドの声が震えている<ルーク>の人を殺す戸惑いの無さに畏れているのは明らかで思わず笑いが零れる

『知ってるぜ?復讐だろ?』

「ふく…しゅ…?」

ガイが続けると朱毛はニヤリと口を歪ませた

『ルークを殺そうとしたお前達に制裁を与えてやるんだよ』

「ルークを…?どういう事ですか?」

意味が解らないと眉を寄せると<ルーク>の表情が曇る

『まだ気付いてやれねぇのかよ?』

「貴方は…貴方は一体…?」

『まぁ、いいや』

剣を床に突き刺し両手を前に突き出すと光が収束する

『消えちまえよ!!』

ジェイドが何か言っていたがそんなの関係ない
容赦無い超振動に辺りは光に包まれていた


力加減無く力を使った為、宿もほぼ全壊しており瓦礫が山になっていた

『ぁーあ、やり過ぎちまった』

すでに体力は限界なのか足元が覚束ない
瓦礫に埋まった剣で身体を支えると突然、無理をした身体が淡い光を帯びて点灯した

『(この身体も…そろそろか……)』

透ける腕を見ていると瓦礫の崩れる大きな音と共に女の啜り泣く声が聞こえ、<ルーク>は足を進める
そこには見慣れた金髪の彼女が手で顔を覆い隠しながら座り込んでいた

『チッ、まだ残ってたのか』

「…っ…ぅう……」

ただ俯いて鳴咽を漏らすナタリアに<ルーク>は怪訝そうに眉間を寄せる
持っていた剣を高く振り上げると笑みを浮かべた

『じゃあなっ!』

「何をしてやがるッ!?」

振り下ろす前に後ろから剣を薙ぎ払われた
手から離れ飛ばされた剣は宙を何度も弧を描いて近くの地面に刺さった
<ルーク>は痺れる手を握ると紅毛を見る

『何だ、オリジナルじゃねぇか』

「…貴様は誰だ?」

身近にいる仲間が気付きもしなかったのにこの被験者はすぐに自分がルークではないと見抜いている
流石は自分の被験者様だ
<ルーク>はキョトンとした後に笑い声を出した

『俺もルークだぜ?』

「…アイツはそんな馬鹿な事はしない」

ハッと笑うとアッシュを睨み据える

『馬鹿な事?俺はルークを壊したお前達に罰を与えてやってんだよ』

「ふざけんじゃねぇ…テメェがやってんのはただの人殺しだ」

冷たい怒りがひしひしと伝わってくる
だが、悪いのは罪を押し付けた被験者達だ!!

『そうだよ!罪深いレプリカは何万の人を殺したんだっ!今更、数人殺そうが変わらねぇだろ?』

「貴様が良くてもアイツならそうは言わねぇ!」

複製品は人を殺す事に人一倍恐怖を抱いていた
そんなやつが人を…ましてや仲間を殺すことなんざ望むはずがねぇ

『でもルークは怖がってた…仲間に捨てられる事も、テメェに怒鳴られる事も』

「な…んだと?」

ピクリと片眉を上げると<ルーク>は見下すようにニヤリと笑った

『俺が助けてやるんだよ…ルークをッ!!』

その言葉にアッシュは愕然と眼を見開く
それを満足そうに見遣ると片手でナタリアの頭を掴むと力を入れる
すると、見覚えのある光が集まってゆく

「なッ!?やめろっ!!」

『コイツの後でお前も消してやるよ』

「く…そっ!!」

アッシュは剣を構えると<ルーク>に向かって走り出す
しかし、無慈悲に光は大きくなっていく

『遅ぇよ!!!』

音と共に終わりの時が来る








時が止まったようだった―

集まった第7音素は消え、胸にはローレライの剣が深々と貫いていた

力を失った手を離すと気絶したナタリアが横たわる
アッシュは何が起きたのか理解出来ずにただ茫然と眼を見開いていた

『は…はは…、やっぱり、俺が…した事は、間違いだ…ったってのか…ルーク……』

「……ーク…?」

剣が刺さったままアッシュを自分に抱き寄せる

「ごめん…俺…止められ…なかった…」

力を入れてアッシュを抱きしめるがその手には力が入らない

「…おれ…俺、……変われなかった…」

「…ルーク……」

ルークの頬に涙が伝う
すると一緒に泣いてくれているかのように空から雨が一斉に降り出した

「俺の、名前…呼んでくれるんだ…」

身体から淡い光が溢れ出す
それを拒むようにアッシュも剣から手を離し力強く抱きしめた

「…何度だって呼んでやる。お前はルークだ」

「ありがとう…アッシュ…」

ルークが眼を綴じると光となり空に上って消えた
それと同時に雨雲の合間から太陽が照らし出す
支えを無くした剣はカランと音を起てて落ち、見れば宝珠と融合して淡い光を帯びていた

アッシュは眩しく輝く太陽を眺め続けていた







END

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帝様から相互記念をいただきました!
黒ルクとルークのすれちがいからおきた悲劇です…
最後のルークは幸だといいです!

ステキな小説をありがとうございました!



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