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宝箱(小説)
結崎なつき様より 相互記念


アッシュは一人、ケセドニアの街を歩いていた。
この街は砂埃が酷い。呼吸をするために、わずかに開いた口の隙間から砂が入りこんでしまいそうで、口を固く結び外套を目深に被る。
靴の中まで砂が入り込んで、正直なところ気持ち悪い。
ヴァンの動向を掴むためアッシュはこの街を訪れたが、ろくな情報も掴めずに苛立っていた。


(…ッち、あの屑もどこにいやがる)


アッシュの脳裏には、自分にそっくりな人物が描き出される。
真っすぐな紅色の髪を持つアッシュと違い、その人物は少し外側にはねた夕焼け色の髪を持っていて、毛先に行くにつれ金色の鮮やかなグラデーションがかかっていた。
釣り目がちのアッシュと違い、その人物は垂れ目で、緑色の瞳を持つアッシュと比べ、その人物は水色混じりの翡翠色の瞳だった。
一見すると酷似している二人だが、実際に並べてみるとそこまで酷似していない。少なくとも、アッシュはそう思っている。
アッシュとしてはその人物――レプリカルークと一緒くたにされるのは、甚だ不愉快だ。
アクゼリュスを崩壊させて、いつの間にかユリアシティから逃げていた役立たずなんかと一緒にされるなど、不本意極まりない。
便利通信網も通じなくなったし、レプリカの居場所がわからず、それが何故か不思議なほど焦燥を煽っていた。


(何故アイツは見つからない)


知らずのうち眉を寄せていたアッシュは、一つ溜息を吐き出し、宿屋を探すことにした。
宿屋で一休みして、夜になったら酒場に行こう。
夜の方がアッシュの欲しい情報が集まりやすい可能性がある。
雑然とした街並みを歩き、宿屋の看板を見つける。
宿屋のドアを開くと、宿泊金を支払って今まさに宿屋から出ようとしていた人物と、ぶつかった。


「っ、すまない」


「や、俺の方こそ、よそ見してたから……げっ」


聞き覚えある声に、アッシュは一瞬にして険しい顔を作る。
アッシュと同じように外套を目深に被っているため、表情が見えない。
しかしその人物が誰なのか――アッシュには誰に言われるまでもなく、見抜いて見せた。
唸り声をあげ、挙動不審になる人物を睨む。
アッシュの目の前にいたのは、姿を隠していたレプリカルークだった。


「てめぇ……今までどこに居やがった!」


「だぁ! もう大声出すなよ! 周りの人に迷惑かかるだろ?!」


「そういうてめぇのほうこそ大声出してんじゃねぇ!」


どっちもどっちだと言う事に二人は気付かない。
宿屋の出入り口で険悪な雰囲気になりつつある二人が、周囲の迷惑を顧みず言い争いを始める。
宿屋の主人が武人風の二人組の口喧嘩に困り果て、憲兵を呼んできた方がいいのか本気で検討し始めたとき、ルークが被っていた外套の中からひょっこりと青い生き物が顔を出した。


「あっ、アッシュさんですの〜、お久しぶりですの!」


戦意を削がれる呑気な声に、二人して同時に口を閉じた。
ルークの肩に乗った聖獣チーグルは重たそうな頭を傾げ「みゅ?」と不思議そうな声をあげている。
途端に口喧嘩することが馬鹿馬鹿しくなり、アッシュは脱力したように額を抑え、ルークがとりあえずと言った感じで「外出るか」と口にした。


「てめぇ、どうして行方を暗ましやがった?」


人気のないところへ向かう途中、ルークの腕を掴みながらアッシュは厳しい声で尋ねる。
ルークがアッシュに逢いたくなかったことは、再会当初の「げっ」と言う言葉でわかりきっている。
人込みで賑わうケセドニアの街で姿を見失ったら最後、アッシュはもう二度と彼を捕まえられる気がしなかった。
逃がしてなるものか、と腕を掴む手に自然と力が籠る。
彼は観念したのか大人しいもので、アッシュに引っ張られる形で付き従っていた。


「つーか、俺的には、どうして行方暗ましちゃいけないのかわかんねーけど」


「てめぇはアクゼリュスを…!」


「あー、はいはい。それは俺が悪うございました。けど、一つ言わせてもらうけど」


言葉を区切り、口角を吊り上げる。
街外れについたため辺りに人気はない。
人がいないことを見計らい、笑みというにはあまりにも歪な表情を浮かべたルークが、抑揚のない声でアッシュに言った。


「あの件について、お前にもあいつらにも、俺が責められる筋合いはねぇよ」


アクゼリュスを崩壊させたにも関わらず、反省してないように聞こえた彼の言葉に、アッシュの頭にカッと血が上った。


「んだと…?」


「怒んなよ、事実だろ。俺は超振動を使って、アクゼリュスを崩壊させた。でも、お前らは何だよ。アクゼリュス崩壊は俺が悪い? ああ、そうだ。俺が悪い。けど、そういうお前らはどうだ? 何も責任ないって思ってんのか? 自分は悪くねぇ? 冗談じゃねーっての。――死んだアクゼリュスの住民たちにとって、“知っていたくせに何もしなかった”お前らは同罪だろ」


「ッ!!」


一見開き直ったようなルークの言葉は真理を突いていた。
少なくともティアやアッシュにだけはルークを責める権利はないのだ。
無論、ヴァンとアッシュの言葉をそのまま真に受け、ルークを責めた一同も。
冷たい瞳で、ルークはアッシュを見据えた。


「お前はアクゼリュス崩壊に気付いていながら、止められなかった。それを言うならティアも同罪だけどな」


「俺は止めようとした! てめぇが止まらなかったんだろうが…っ!」


「俺に斬りかかってきて、しかも、俺の体を操ってガイ殺そうとした奴の言葉なんて信用できるかよ」


「!」


がつんと石で頭を殴られたような衝撃を受けた。
そうだ。
敵対していた自分の言葉を、あのときのルークが信用できるはずもない。
ハッと息を飲んだアッシュに対し、ルークは皮肉った笑みを浮かべる。


「信用できないのは、アッシュだけじゃねーけど」


――お前らは信用できねぇ。


忌々しそうに吐き捨てた彼の言葉は、嫌悪に溢れていた。
自分の劣化レプリカ。所詮、紛い物。
そう思っていたアッシュの思想を、打ち砕く。
それほどまでに彼が浮かべた表情は、アッシュとは違いすぎた。
困惑してルークの腕から手を離す。
彼の腕にはアッシュの手形がついてしまっていた。
その手形を一瞥したルークは言葉少なく、動揺するアッシュに告げる。


「俺、あいつらと行動すんの嫌だから。俺じゃなくてお前が、あいつらと仲間になればいんじゃねーの?」


話は終わった、と背を向けるルークの腕をもう一度掴んだ。
ここで行かせれば、もう二度とルークはアッシュの前に姿を見せることはないだろう。
予感めいた確信が心の奥にあった。


「何故、そこまであいつらと一緒に居るのを嫌がる!? あいつらはお前の仲間だろうが!」


浅慮なことに、こう言えば何処にも行かないのではとアッシュは思っていた。
アクゼリュスまで共に行動し苦楽を分け合った仲間だ。情が芽生えていてもおかしくない。
自分は信用できなくても、仲間であるナタリアたちであれば信用できるはず。それが当然だ。
それなのにルークは仲間を好意の目で見ていない。
ルークは溜息を吐いて、一言口にする。


「お前もあいつらと“仲間”になってみりゃわかるよ」


どう言う意味だと問うことは出来なかった。ルークの顔があまりにも苦痛に歪んでいたせいで。何も言えず、黙りこむアッシュを見ることなくルークは背を向ける。


「っ……」


去り行くルークの背をただ見送ることしかアッシュには出来ない。
追うことは出来た。しかし、今の自分では追っても意味がない。そんな気がした。
ルークがアッシュに向ける目は冷た過ぎた。それこそ無価値なものを見るような眼だった。
路傍に咲く野草に向ける眼よりも、無価値な物を見るような眼で見られて、アッシュの矜持は深く傷つけられた。


「クソ…っ!」


許せない。
――俺の劣化レプリカのくせに、あんな目で俺を見るなんて。
すぐに追い付いて、掴まえてやる。
雑踏にまぎれるように遠ざかって行ったルークの背中を、瞳に焼きつけるように見つめていたアッシュは決然と歩き出した。次に向かうは、ナタリア達の元へ。
彼の頭の中は、ルークの言葉一色に染まっていた。












ナタリア達一行の居場所はすぐに探れた。元々隠れて旅しているわけでもない一行だ。
各地にある神託の盾騎士団の支部に顔を出し、話を聞きに行けば容易に居所は知れる。
一行は現在グランコクマの宿屋に滞在していた。どうやらマルクト皇帝へ現状を報告しに来たようだ。
ギンジが運転するアルビオールでグランコクマを訪れたアッシュは、ルークの言葉の真意を確かめようと一行の仲間になることを申し入れた。
ガイが複雑そうな目を向けてきたが、ルークを欠いた一行は戦闘力を著しく損なっていたので、パーティのリーダーであるジェイドが頷いたことでアッシュの加入が決まった。
アッシュの加入にナタリアが嬉しそうな顔を隠しさなかったが、ルークの真意を確かめる事だけが脳内を占めていたアッシュは淡々とした眼を向けるだけだった。
翌日。アッシュを入れた一行はグランコクマを後にした。
街の少し離れた場所でアルビオールを停めているので、その場所へ向かう。街の外へ出るとすぐに魔物たちが襲ってきて戦闘になる。
剣を鞘から抜いたアッシュは、パーティの意向により前衛として敵を減らすことに専念した。ガイが先陣を切り、魔物を一太刀で切る。
ガイと違い瞬発力がないアッシュは心臓を狙ってきた魔物の鋭い爪を防いでから、真っ二つに切り捨てた。
敵の数は五体。内二体はガイとアッシュで切り捨てた。アニスのトクナガが敵を一体遠くへとふっ飛ばし、ナタリアが一体の頭を射抜く。残る一体。この程度ならば余裕だ。
そう思った瞬間、アッシュの後ろで長々と詠唱していたティアが、小さな悲鳴をあげた。
何事だと振り向くと、ティアは魔物に襲われていた。詠唱を中断し、ナイフで応戦しティアは魔物の首を掻っ切る。魔物は絶命し、倒れた。
戦闘終了だ。剣を鞘に収めるアッシュに、柳眉をつり上げたティアは険しい視線を向けた。


「詠唱中は守って」


「……何だと?」


「前衛が詠唱時間を稼ぐために後衛を守るのは当たり前よ。あなた、そんなことも知らないの?」


溜息混じりに言われた言葉に、ただでさえ険しいアッシュの眉間に深く皺が刻まれる。
前衛が後衛を守るのは当たり前? そんな話、聞いたこともない。


「まぁいいわ。今度からは守ってちょうだい」


「…待て。詠唱時間を稼ぐためなら、少しは協力してやる。けどな、守られて当然の顔をしてるんじゃねぇよ。敵のすぐ傍で戦ってる前衛に比べりゃ、少し気を付けてりゃテメェら後衛はすぐに敵から離れられるだろうが」


前衛は敵を捌くのにそれこそ命がけだ。
人の背に守られて術を使ってる後衛よりも危険の度合いが格段上なのだ。守れと言われても、必ず後衛を守れるわけではない。
だと言うのに、守れなかったことを不手際と言ってるようなティアの態度は、少々腹に据えかねるものがある。


「わがまま言わないで。詠唱中は動けないのよ」


「わかんねぇ奴だな。敵が近付いて来たときは詠唱をすぐに破棄して、もっと安全な所に移動すりゃ良いだろうが。そんなことすらわからないのか」


「わかってないのは貴方でしょう!?」


「お二人とも何をやってるんです? 喧嘩している暇はありませんよ。ノエルを待たせてるんですから、痴話喧嘩は場所を弁えてお願いします」


険悪な雰囲気になり始めた二人は、今にも喧嘩を始めてしまいそうな顔で互いを睨み合う。ジェイドの先を急ぐ声に喧嘩にはならなかったが、この日一日、二人のせいでパーティはずっとギスギスしていた。
そんなことが数度続き、アッシュは、自分の背後でひそひそと悪口に花を咲かす一行に溜息を吐いた。
最初はティア、次にティアを庇おうとするガイ、場を弁えず寄り添ってくるナタリア、それを揶揄してくるアニスの順でアッシュは“仲間達”と喧嘩してしまい、孤立していた。
唯一、ジェイドとは派手にやり合ってないものの、それは必要最低限の会話しかしてないせいだ。決して気があったわけではない。


「アッシュさー、なんかだんだんルークに似てきてない? わがままって言うかさー」


「本当ね…。被験者とレプリカってやっぱり似るものなのかしら」


「二人とも失礼ですわよ。アッシュは少し疲れているだけですわ。レプリカルークとは違います」


「でもさー、ナタリアはそう言うけど、ほんとアッシュってばわがままだよ? 昔のルーク見てるみたい。だってアッシュってば、あたしたちが少し寄り道してるだけで癇癪起こすじゃん。少しくらい平気だって言ってるのに」


「そう言われてみればそうね。導師が六神将に誘拐されたときも、ルークは導師の身よりもアクゼリュスを優先させるべきだって言ってたもの。導師がいなければ和平成立しないのに…それをわかってないかったわね。世間知らずだったわ」


「ははは…一応あいつを育てたのは俺だから、そう言われると痛いな…」


「ガイは悪くないわ。ルークが悪いのよ」


「けどなぁ…あいつを世間知らずに育てちまったのは、俺のせいもあるしな」


否応なく耳に入ってくる会話に、だんだんと嫌気がさしてくる。
ヴァンを探しすぐに討伐すべきだと主張しても、彼女たちは「そんなに急がなくても大丈夫よ」と根拠ない自信で言い張る。
せっかくナタリアやジェイドと言った、国王と近しいものが居るのだから権力を利用し、軍隊でも使ってヴァンの居所を探せば良いのに、これでは貴族の物見遊山だ。
もっともな意見を口にしても、自分たちの都合に合わないとわがままだと言われ、彼女たちの意見に賛同すれば上から目線で「アッシュもわかるようになったじゃん」と言われる。
彼女たちの意見に反対するたびに、悪口はヒートアップして、今ではもうルークと共にさり気無く貶められ、罵られる始末だ。


「ガイのせいじゃないわよ。アッシュとルークが世間知らずなのは彼らの責任なのだから。私たちがこれから教えていけばいいわ」


どうしてこいつらは、自分が絶対的優位に居ると思えるのだろうか。
苛立ちが募る。
何を言っても理解されない。理解しようとしない。
自分たちの耳に優しい言葉しか受け入れようとしないのだ。
ルークはこの仲間たちの仲に身を置いていた。
恐らくはアッシュよりも酷い罵詈雑言を浴びせられて、それでもなお行動を共にしていたのだろう。
自分には出来ないとアッシュは思った。
本来気が長いとは言えないアッシュだ。
彼女たちと二週間ほど行動を共にしていたが、今ので堪忍袋の緒はとうとうぷつりと切れた。
アッシュは足を止め、彼女たちを振り返る。
冷たい表情で睥睨すると、悪口を楽しそうに話していた彼女たちは一様に気まずげな顔をした。


「ふん…クズ共が。口を開けば罵詈雑言か? 俺やあいつの悪口に花を咲かす暇があったら、テメェの言動を振り返ってみたらどうだ。テメェらの言葉を聞いてるとあまりの醜悪さに吐き気すらしてきそうだ。胸糞悪い」


考えてみれば、ルークの言葉は正しいのだ。
アクゼリュス崩壊前の自分の行動を振り返ってみれば、ルークが自分を信用しなくて当然だ。
アッシュはそのことに気付いた。
仲間たちはルークが自分たちの元を去った理由を考えもせず、ただルークが悪いと罵る。
道中の会話を聞いていても、彼女たちが我が身を振り返ることは一度も無かった。
何か不都合な事があると、相手が悪いと言うばかりで。
ルークにとって、アッシュはこの仲間たちと同じだと思われたのだろう。
アッシュの脳裏に、背を向けたまま振り向かないルークの姿が鮮明に浮かぶ。
自分のレプリカ、人形だと思っていたルーク。
けれどその認識を改めないといけないことに、アッシュは気付いた。


「ア、アッシュ!?」


まさか婚約者である自分も言われるとは思わなかった――。困惑した表情をするナタリアに、アッシュは侮蔑の眼差しを送る。
その瞳は雪のように凍えていた。


「俺はここでテメェらと別れる。勝手に罵詈雑言でも吐いてやがれ、クズ共」


こいつらに説教しても時間の無駄だ。
ナタリア達を容赦なく見限ったアッシュは、躊躇なく背を向ける。
自分を引き止めるナタリア達の声が聞こえた。しかし、アッシュがその声に足を止めることはくそのまま一行の傍を離れた――……。


ルークの居所を探し当てたアッシュは、ルークを捕まえると、ナタリア達一行と決別したことを説明した。
大人しくアッシュの話を最後まで聞いていたルークは、一つ溜息を吐くとうんざりとした声をあげ「それで、」と切り出した。


「俺にくっついて来ることにしたのか?」


「ああ」


アッシュは躊躇なく頷いた。
ルークの意思など無視だ。
ついて来るなと言われても一緒に行動する。
その決意がアッシュの表情から窺えたのか、ルークは嫌そうな声を荒げた。


「“ああ”じゃねーよ。なに吹っ切れた顔してんだよ、俺はお前と一緒に行動するなんて了承した覚えはねーっての! 一人で行動しろよ」


「うるせぇ。テメェは俺の言うことを聞いてりゃ良いんだ」


「はぁ!? まだんなこと言ってんのか。俺はお前のもんじゃねぇっつーの!」


「なに言ってやがる。テメェは俺のもんだろうが」


「だから、違うって言ってんだろー!」


違わない。少なくとも、アッシュの中ではルークは”自分の物”だ。
ルークが思い通りになる人形ではないことは理解している。――だが、それでも。
ルークは未だアッシュのものだ。
その認識を改めるつもりなど、自分には無いのだ。
ルークは苛立ちを紛らわすべくガリガリと頭をかき毟る。
アッシュは深緑の瞳を細めて、不思議だな、と胸中で呟いた。
自分と同じ顔、自分と同じ姿、自分と同じ声。頭の構造も、体の構造もまったく同じなはずなのに――思考回路は違う。
嫌悪しか抱けなかった自分のレプリカを前にして、今はもう嫌悪など感じない。自分とルークは違うのだと、認めることが出来たおかげだろう。
それに気付かせてくれたのがルークのかつての仲間達だったのだから、皮肉なものだが。
彼女達はレプリカの方が人間よりも良いと、アッシュに思わせるくらいに醜悪であった。
他者を貶めることで自らの優位を主張し、自分の意見と他者の意見が合わないとそれを非難する。
人間不信なところがあるアッシュが一行に見切りをつけたのは、それが理由だった。
一頻りウダウダして気が済んだのか、ルークは恨めしげな視線を向けてくる。
如何にもアッシュの存在を迷惑がっていたが、アッシュが何を言われようとも引かないことが分かったらしく、妥協を見せた。


「…わーったよ。勝手にしろよ。俺はナタリア達がお前を連れ戻そうとも知らねーからな」


「わかった」


「あと!」


何だ、と器用にも片方の眉を吊り上げる。
ルークは腰に両手を当てた。


「俺を二度とお前のもんだとか、クズとか言うな。俺はお前の所有物じゃないんだからな」


それだけは主張しとく。
――言いたいことを言って気が済んだルークは、さっさと背を向けてしまう。
アッシュはニィと口角を吊り上げ、口を開いた。


「断る。テメェは俺のもんだろ。なぁ、ルーク?」


初めて名前を呼んだ。
思いのほか、口からするりと零れ落ちた言葉はしっくりと来た。
アッシュが自分の名前を初めて呼んだことに気付いたルークはバッと振り向く。
その顔は、アッシュが目を瞠ってしまうほど真っ赤で。
忍び笑いをもらしたアッシュはルークの隣へとそっと並んだ。










End
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なつきさんから相互小説を頂きました!

アッシュはPMよりもルークといて欲いという個人的な願いでアッシュをルークの側に引き入れて頂きましたv
なんだかんだでルークもアッシュ一緒にいられて嬉しいといいですwww

素敵な小説をありがとう御座いました!!



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