宝箱(小説)
羽音あい様より 七夕フリー
【君に届けこの願い】
日が沈む夕暮れ。
軽くも重くもない足取りで町中を歩きつづける。
一日が終わろうとしているせいか辺りで商売をしていた商人達もそれぞれの家や宿へ戻る為に荷物を纏めている。
その中で一つだけ子供も大人も集まっている店を見つける。いつもならそのまま過ぎてしまうが何故か今日は気になってしまいそこへ足を向ける。
「お兄ちゃんもお願い事書きにきたの?」
店に立っていた子供の一人か近づいてきた自分に気付いたらしく様々な色の紙を持ちながら走り寄ってくる。
「願い事?」
「うん、今日この紙に願い事を書いて竹っていう植物に吊り下げれば願い事が叶うんだって!」
お父さんが持ってきた竹に皆で願い事を書いた紙を吊り下げてる途中なんだと続ける少年に彼がこの店の店主の子供だと分かる。
店主に視線を向けると人の良さそうな顔でこちらに頭を下げていた。
「お兄ちゃんも書いてみなよ」
そう言い特別に二枚あげると朱と紅の紙を手の平に乗せて少年は店主のところへ戻って行った。
残された二枚の紙を眺めながらふとした好奇心で近くに置いてあったペンで文字を書き始める。
何をしているのかと途中で馬鹿らしくなったが今更止めるのも面倒だと朱色の紙に目的の文字を素早く書き上げた瞬間に悲鳴が上がった。
「あぁ?願い事が叶うなんて馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!」
荒々しくその声を出したのはいかにも悪事を重ねていますと言った容貌の男で近くに溜まっていた子供達を掻き分けて店主の目の前に立つ。
「てめぇか…こんなくだらないことをやってやがるのは……」
「いえ、これはただのおまじないみたいなもので…」
「うるせぇ!!てめぇのところに居るガキのせいでこっちは苛々してんだよ!」
店主の首を掴みながら意味の分からないことを叫ぶ男に周りが非難するが男が腰に付けていた小刀を店主の首に突き付けた事で一気に静まる。
「いちいちてめぇらもうるせぇんだよ!!こいつが死ぬところを見たくなかったら静かに…」
「父さんを放せ!」
静かにしろと続けるつもりだった男に先程自分に話し掛けてきた少年が石を投げる。
涙目で必死に石を投げる彼にさっき投げた石が当たったらしい男は血の滲んだ額を押さえながら少年に近づく。
「この…クソガキがぁぁ!!」
「ひぃ!」
振り上げられた小刀に少年が身体を丸めるが小刀が少年に触れる前にそれを防ぐ銀の鎌が現れる。
「何!?」
「大の大人がこんなガキを虐めるなんて腐ってやがるな」
吐き捨てるように呟くと足で男の手を蹴りあげて小刀を遠くへ飛ばす。それに困惑している男に歪んだ笑みを浮かべながら構えていた鎌を振りかざす。
「ぐ、あ゛ああっ!!!」
男の腕が円を描くように飛ぶのを見ながら告げる。
「は、本当だったら殺してやりたいが、今日は気分がいい……見逃してやるよ」
「ひっ!!!!」
さっさと逃げやがれ負け犬がと言い放つと恐れを感じた男は無くなった腕があった場所を押さえながら急ぎ足で逃げて行った。
「ふん…」
持っていた鎌を空気に溶かすように消しながら瞳をいまだ地面に手をつけている少年に向ける。
困惑と恐怖と安堵に染まった少年の瞳を見つめながら持っていた紅の紙を少年に投げる。
「お兄ちゃん…?」
「願い事なんてするもんじゃねぇな…全く違う奴らが近づいてくるんだから」
囁くように呟かれた言葉に少年が首を傾げるがそれ以上何も話すことなく朱い髪の青年は着ていた黒い上着を翻しながら闇に染まっている町の中へと消えて行った。
「あ、お兄ちゃん!」
既に夜を迎えた時刻に町を歩いていたアッシュはその声に足を止める。
「…誰だ?」
振り返って見れば見知らぬ顔の少年が自分の後ろに立っていて。
自分に話し掛けてきたはずの少年も自分の顔を眺めながら目を見開いた。
「あ、ごめんなさい…僕が知ってたお兄ちゃんに似てたから……」
「俺に似ている奴、だと…?」
少年の言葉にたじろぐアッシュの頭に自分の半身にも近い彼の姿が思い浮かぶ。
こちらを見ている少年に膝をつきながら目線を合わせ詳しい事情を聞こうと話した。
「すまないがその話を詳しく教えてもらえるか?」
「え、うん…いいよ」
言葉を詰まらせながら少年は先程あったことを細かく教える。
彼が全て話し終えるとアッシュは疲れたように息を吐く。
確実に自分のレプリカであろう彼が少年とその父親を助けたことに正直驚きが隠せない。彼は被験者を限りなく憎んでいたはずだから。
「どんなに被験者を憎もうと…お前はやはりルークなんだな…」
誰よりも人を傷つけることを恐れていた彼の本心が知らずに行動に出ていたのだとアッシュは呟く。
「あ、あとね!」
アッシュが呟いた言葉は聞こえなかったらしい少年は懐から大事そうに二枚の紙を取り出す。
「あのお兄ちゃんが置いて行った願い事を書いた紙。どうすればよかったのか分からなかったから…」
とりあえずもう一人のお兄ちゃんに渡しておくねと言い自分の手の平に紙を手渡し少年は遠くで自分を呼んでいる父親の元に戻って行った。
「……一体何が…」
書かれているのだろうとアッシュがその紙を覗き込むとまるで自分の髪のような色の紅い紙には文字が一つも書かれておらず、ならばともう片方の朱色の紙を眺めると途端に目を見開いた。
「…あの馬鹿が…」
朱色の紙を強く握りしめたアッシュは唇を噛み締めその場所から走り出す。
その姿はまるでアッシュを誘うかのようにうごめく闇の中へと消えて行った。
『出来ることならアッシュに会いたい』
朱色の紙に書かれた願い事が叶うかどうかは彼次第。
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羽音さんのサイトの七夕フリーを頂いて来ました!
こっそりアッシュに会いたいと思う黒ルク…v
このあと何処かの橋の上で会えたらいいなと思ったりwww
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