宝箱(小説)
羅姫樣より
「さーて、何処に行こうかな」
無の空間に一つ明るい声が響く。
其処はふよふよと無数の光の球が浮かんでいて、少年の他に誰も居ない。
朱色の髪を靡かせて光の球を覗きながら声を弾ませた。
「ここもいいなー‥‥」
其は己が体験した記憶をローレライに頼んで具現化したものだった。
光の球に映るのは最初“仲間”
と呼んだ、今では大嫌いを通り越して殺意しか芽生えない同行者が自分を蔑ろにする姿と。
何度も自分を死に追いやった世界。
破壊したい衝動が止まらない、けれど自分には肉体が無く存在するのは精神だけ。
この衝動をどうすればいいと考えた末思い付いた。
ソイツの身体を乗っ取って晴らそうと。
だがただ乗っ取るのは詰まらないし、乗っ取ったとしてもソイツが弱ければ晴らす事も叶わないだろう。
ならばソイツと戦えばいい。
その事をローレライに話し、最初は渋ったが脅した甲斐もあって力を貸してくれた。
「さぁーて、何処にしようか」
目を配らせ、止まったのは。
世界の為政者と同行者が集まり死刑宣告を下された記憶。
「障気中和か‥‥」
この時は自分は何を思っただろうか?其はもう覚えていない。
数え切れない程時を繰り返して力と欲望だけが膨らんでいた。
「さあ、行くぜ!」
今回の世界滅亡を賭けた戦いへ、少年は笑みを浮かべながら深い闇を抱いて光の球に触れた。
−Pleasure deficiency disease−
「‥‥俺、やります」
障気を中和する為には一万人のレプリカと超振動、世界の為政者達はそう決断した。
事実一万人のレプリカとルークに死刑宣告されたものだった。
"仲間"達は悲しそうに見つめる。
もう、分からなかった。
本当に死んでほしくないなら何か案を出せばいいのに、誰もただ異議を唱えるだけ。
そもそも、どうして俺がやらなきゃいけないんだ?
超振動は確か第七譜術士二人で擬似でも起こせるはず。
それなのに、どうして俺と限定して話を進めてるんだろう?
俺がアクゼリュスを崩落させた罪人だからか。
俺がレプリカだからか。
もう、考えるのが疲れてきた。
死にたいのかと聞かれても答えは違う。
本当は生きていたい。
けれど、もう、こいつらと一緒に居るのは正直嫌だった。
イオンも居ない。
あっちに行けばイオンに会える。
だから死にたい。
けれど今までずっと離れず傍に居てくれたミュウは残したくない。
だから生きたい。
矛盾した考えが頭に巡るばかり。
そんな中、頭に声が響いた。
『なら俺にその身体、寄越せよ』
頭痛を伴わない声に一瞬辺りを見渡したが誰も言葉を発していない。
「どうした?ルーク」
「いや‥‥何でもねぇ」
幻聴だろうと考えた刹那、再び声が響いた。
『幻聴扱いすんな。ちょっくらお前自身に用があるんだよ。
−−だから身体は眠ってもらうぜ』
瞬間頭が割れんばかりの頭痛が走る。
「あぅ‥‥ゔ‥ッああっ!」
「ルーク?!」
頭を抱え膝を着くルークに一同は駆け寄る。
(目が‥‥霞む‥)
ガンガンと、鐘が叩かれてるかのように頭痛は止まない。
次第に自分を呼ぶ声も遠く聴こえてくる。
(みんな−−‥‥)
そしてルークは呆気なく意識を手放した。
***
『おい、起きろ』
「うっ‥‥‥ッ?」
目を開き視界に飛び込んだのは、朱。
自分と同じ、朱い髪。
ぼやける眼を擦って捉えたのは自分そっくりで。
違う所を挙げるならば、服の色くらいだろうか。
彼は黒を基準とした服だった。
「‥‥俺のレプリカ?」
思った事をそのまま口にしたルークに彼は嗤った。
『半分正解で半分ハズレ』
「じゃあお前誰だよ?つーかここ何処だよ?!」
『落ち着けよルーク。俺はルゥア。俺は確かにお前と同じあの赤デコ鶏のレプリカだけど、それはこの世界の奴じゃない』
「どーゆー事だ?」
首を傾げるルークにルゥアは笑う。
『簡単に言うと俺は未来から来た、精神だけ何度も逆行してる』
「‥‥‥?」
『今の俺には肉体が無い。そこでお前の肉体が欲しい』
「ちょっと待てよ!何が何だかさっぱり分かんねぇぞ!そもそも俺の身体を使って何すんだよ?!」
『俺がしたいのは世界を壊す事』
「そんなことさせるかっ」
『ならこの身体の主導権を賭けた勝負をしようぜ?』
ニヤリと笑いながらルゥアは持っていた鎌を構える。
その瞳は深淵を映すかのように暗く、けれど黒い焔が宿っているみたいで。
(こいつ‥‥やばい!)
纏う雰囲気が桁外れな程に禍々しさに無意識に腰に携わっている剣の柄を握る。
『俺が勝ったらお前の身体は俺が支配する。お前が勝ったら大人しく出てってやるよ』
ルゥアが笑みを崩さず言葉を放つ。
『行くぜっ!』
「っ、うわあッ?!」
鎌を振り下ろす前にルークは剣で防御する。
ガキィン!と、金属音が響き渡る。
何度も刃が交じり合うが押されてるのはルークの方だった。
(強い‥‥っ、ヴァン師匠よりも‥!)
そうルークは感じた。
あの時ヴァンを倒せたのは仲間の協力があってこそのもの。
だが今は自分一人。
そして目の前のルゥアはこれまで戦ってきた者達より遥かに強い。
心の底で“負ける”という諦めが芽生えた。
その僅かな表情の変化をルゥアは見逃さず、ルークに言葉をかけた。
『なあ、お前があの世界で生きる意味って何なんだ?』
「え‥‥?」
『アクゼリュスは預言繁栄の為に送られ、障気中和は超振動が使え、レプリカだからからという理由で、お前は二度も死を強要された。
お前を受け入れてくれない世界の中でお前は何故守りたいと思う?』
「あっ‥‥」
剣先が震える。
瞳に迷いが生まれた。
『皆被験者よりレプリカが犠牲になる事を選んだ』
「ちが‥‥っ」
『違わないだろ?なら何で真っ先にレプリカが出て来たんだ?第七譜術士一万人でもよかっただろーが。なのにレプリカを選んだ。レプリカは居てはいけない存在、化け物だから。残すならレプリカより被験者だと世界は判断した』
『お前の仲間も、お前を犠牲にしたくないと口では言うものも他の方法を言わない、考えようともしない。口先だけだ』
『誰も、誰もレプリカを、お前を認めてくれない』
ルゥアの言葉が胸に突き刺さる。
カランと、剣が滑り落ちた。
ルークはぽつりと呟く。
「レプリカはやっぱ居ちゃいけない存在、道具なんだな‥‥」
絶望が隠せない。
「どうせ認めてくれないなら‥‥もういいや‥」
その言葉を聞くとルゥアは静かに笑みを浮かべ、もう一度問い掛けた。
『お前はあの世界で生きたいか?障気中和をしたいか?レプリカを道具扱いする被験者の為に』
ルークは静かに首を横に振った。
『なら身体を寄越せ。お前らレプリカを認めてくれない世界を俺が破壊してやるよ』
カツン、カツンと靴の音を響かせながらルークに近付く。
『お前は今までよくやった』
そう言いながら頭を撫でるとルークは静かに涙を零した。
『だから‥‥もう眠れ』
その言葉に安心したのかルークは瞳を閉じルゥアにもたれかかった。
−−ルゥアが歪んだ笑みを浮かべているとは知らずに。
***
ぱちりと瞳を開いた。
視界に飛び込んだのは青い聖獣。
「ご主人様が目を覚ましたですの!」
その声に同行者は彼の周りに集まる。
皆は心配した、大丈夫?と彼を気遣う。
けれど彼は無言のまま。
纏う雰囲気に気付いたのはミュウとジェイドだった。
「ご主人様?」
「‥‥くくっ‥」
「ルーク?」
「‥‥くくっ、あははははっ!」
突然笑い出す彼に一度は怪訝な表情を見せる。
彼は笑みを崩さず周囲を見渡して手の握り締めを繰り返すと歓喜の声を上げた。
「ようやく俺の身体が手に入った!これでこの世界を滅ぼす事が出来る!」
「「「「!?」」」」
「ルーク、貴方は何を」
「お前らの知るルークはもういねぇよ」
彼−−ルゥアはベッドから立ち上がると鎌を具現化させた。
いち早く冷静さを取り戻したジェイドも槍を具現化させて迎え撃とうとする。
困惑でついていけない者達は声を上げた。
「ルークどうゆう事なの!?世界を滅ぼすって!」
「馬鹿な事をおっしゃらないで下さいまし!」
「大佐も、彼はルークですよ!?ルークも何をしてるの!?」
喚きは止まらない。
ルゥアは煩いとばかりに鎌を振り下ろした。
沈黙が走る。
静かにジェイドが口を開いた。
「‥‥貴方は“ルーク”ではありませんね?」
「最初から言ってるだろ。お前らの知る“ルーク”はもういねぇって」
「だからどうゆう事だ!?」
「“ルーク”は世界に絶望して眠りについた。レプリカを道具のように扱う世界に、レプリカを認めてくれない世界に。
だから俺はこの身体を乗っ取った。そしてこの世界を破壊する。」
ゆらりと鎌が煌めく。
ようやく他の者達も武器を構えた。
「邪魔する奴は容赦なく殺してやるよ」
楽しい、愉しい!
身体を切り刻んだ時のこの感触が。
相手の恐怖と絶望に歪む顔が。
在ったモノを壊すこのスリルが。
「たまらねぇ‥‥っ!」
血塗れの部屋で一人嗤う。
間もなく世界は阿鼻叫喚に包まれるだろう。
全てが終わった時、彼はまた別の世界に旅立ち巡り逢うのだろう。
飢えた快楽を満たすのは破壊するしかない。
最早依存となってしまった彼を止める事など−−皆無に等しいだろう。
The pleasure deficiency disease is noted handling.
(もっともっと俺を感じさせてくれよ)!
End
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茶会で黒ルクルクの精神世界バトルネタを出して盛り上がっていたら素晴らしい小説を書いて下さいました!
体を乗っ取るために精神世界で痛めつけられるルークに萌えます!!
素敵な小説をありがとうございました!
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