[通常モード] [URL送信]

記念作品

最後に残った斎と寧々は、盛大な溜め息を吐いて夾の帰りを待っている。



寧々:「そのDVDの内容って、さっきのでしょ?」

斎 :「そう。あれが世の中に流れたら…職を失っちゃうなぁ」

寧々:「いやいや。その前に恥ずかしいから!」



頭を抱える二人は、どうするかと相談し合っていた。
そんな時、藍を抱いた夾が、やっと戻ってきたのだ。



夾 :「後はお前達だけだ。帰らないのか?」

斎 :「夾、頼むからっ」

夾 :「仕方ない。と言うよりは…お前達のは撮っていない。面白くなかったのでな」



サラッと言い放った夾は、“だから帰れ”と言っていた。

事実を聞いた斎と寧々は、嬉しいのか嬉しくないのか微妙な所。
“面白くない”とは、はっきり言って失礼だ。
だが、夾だからこそ許せる言葉なのかもしれない。



斎 :「面白くない…ねぇ」

寧々:「いい!私達はこれでいい!」



斎の低い声音に、寧々は必死に言い募る。
日頃は穏やかだが、切り替わった時が恐ろしい人物。
言うなれば、白と黒だ。



夾 :「それほどまでに望むのなら、別撮りするか?俺が監督をしてもいい。なぁ、藍」

藍 :「私は嫌!だって…」

夾 :「あぁ、そう言えば…“あの”椅子が気に入っていたなぁ」



カタログ撮影での事を言っている二人だが、寧々にはサッパリ理解できない。
斎は、夾と藍の話など聞いていないのか、テレビを見ている。



寧々:「結構です!」

夾 :「残念だ。では、寧々の代わりに藍が攻められると言う事になるかな。勿論、相手は斎だが?」

藍 :「っ!・・・」



急いで反論しようとした藍だが、大きな手で口を押さえられ、言葉が出ない。
揺れる瞳で夾を見上げれば、完全に遊んでいる顔をしている。


本気じゃない…
絶対に寧々さんで遊んでる!


すぐに理解した藍は、黙り込んだ寧々に視線を向けた。
その寧々は、究極の選択を迫られている顔をしている。
夾の言葉を真に受けているのだ。



夾 :「どうする?」

寧々:「AVは…」

夾 :「では特別に、下着着用可の撮影にしてやる」

寧々:「それなら」

夾 :「今の言葉、忘れるなよ」



勝ち誇った夾は、また何かを企んでいる。
藍は嫌そうな表情を浮かべて、そっと夾を盗み見た。
すると、黒い夾と目が合ってしまったのだ。



藍 :「その撮影って…」

夾 :「勿論、下着のカタログだ。瑠衣からフラれたので探していたが…手間が省けて良かったよ」

藍 :「嘘吐き!最初からそう仕向けたくせに!(そう、なんだ)」

夾 :「藍。心の声と口に出ている言葉が反対では?俺の姫は口が悪い様だなぁ」



真っ黒い羽が背中に見えた藍は、急いで夾の腕の中から飛びおりた。
そして後ろを振り向かず、一目散に逃げ出したのだ。



夾 :「おやおや。全く…手のかかる子だ」



そう言いながらも、嬉しそうな笑みを浮かべる夾。
獲物の捕獲を楽しんでいる様だ。



斎 :「夾。ほどほどにしておけよ」

夾 :「勿論心得ている。それより、早く帰れ」

斎 :「言われなくても」



笑い合う二人を見た寧々は、やはり同類だと再確認した。
この、何を考えているのか分からない顔が、本当にそっくりだ。

突っ立っている寧々に視線を向けた斎は、ニッコリと笑みを浮かべる。



斎 :「寧々、帰るよ」

寧々:「…うん」



寧々は既に進んでいる斎を、急いで追いかけた。
このタイミングで帰れる事には、心からホッとする。



斎 :「そう言えばカタログの撮影、引き受けたんだよね?」

寧々:「聞いてたの?」

斎 :「勿論。俺にお鉢が回ってこないよう、聞いてないフリをしてただけでね」

寧々:「狡っ!」

斎 :「夾と付き合うなら、これぐらい出来ないと。まぁ、引き受けたからには頑張って」



突き放す斎に、寧々は渋い顔をした。
自分の下着姿を、他の人に見られてもいいのかと言う思いだ。

その思いが伝わったのか、斎は口端を上げて笑った。
恥じらう寧々を見て、楽しもうと言う事なのだが、寧々には内緒。
今だに鬼畜ではないと思っているから。


一方、逃走中の藍は、書斎に逃げ込んでいた。
ここは唯一、鍵がかかる場所だから。
しかし夾を相手に、そんな手が通じるはずもなく、呆気なく撃沈する。



夾 :「夫を寝室から閉め出すのか?いけない子」

藍 :「っ!」



鍵を開ける事が可能な夾には、全く意味を成さない行為だった。
藍は夾を見つめながら、ゆっくりと後退する。

そのままの状態で後退していると、夾の仕事机にたどり着いた。
無意識に手を動かしていると、何かが当たり、思わずそれを掴んでしまった。

首を傾げて持ち上げ、それを見たと同時に、嫌な予感が広がる。



藍 :「これ…」

夾 :「お前が相手をしてくれない時のおかずだ。見るか?可愛い声で鳴く藍が映っている」

藍 :「まさか…ホームビデオって・・」

夾 :「ご名答。一応言うが、それを壊しても意味はないぞ。バックアップはしっかりしてあるからな」



顔を真っ赤にしている藍は、そんな事だろうと思い、壊す事はしなかった。
そんな事をすれば間違いなく、すぐ近くのお仕置き部屋に連れていかれるだけだから。



藍 :「絶対に誰にも見せない?」

夾 :「当たり前だろ。何故見せないといけない?そんな勿体ない事はしない」

藍 :「それなら、いい・・」



本当はよくないが、約束がある以上、納得するしかない藍。
勿論その約束も、夾の罠なのだが、藍が自ら気付く事は絶対にない。



夾 :「さて…最後の仕上げをしようかね」

藍 :「最後の仕上げ?」

夾 :「俺のシナリオ通りに動く奴らばかりで…本当に楽しいよ」



ニッコリと笑い、藍を抱き上げて椅子に座った夾は、PCを開いて編集を始めた。
それも、いつ撮ったのか分からないモノばかり。
関係のない事を喋っているが、何故か上手く繋がっていく。
その理由は、直ぐに理解できた。



藍 :「このナレーションて…」

夾 :「勿論俺だ。使えない部分は吹き替えもしたぞ」



嬉嬉とする夾は、その出来栄えに満足したのだった。

そしてそれが、皆の手元に届くのに、そう時間はかからなかった。
DVDの内容は、国王と囚われの姫の話。
使える部分はそのまま使い、使えない部分は編集をして完璧に仕上げていた。

それを見たメンバーは、思わず拍手をしたほど。



藍 :「夾ってさ…自分が楽しいと思う事には、徹底してるよね」

夾 :「当たり前だろ?人生は一度しかない。楽しまなければ損だ」

藍 :「うん…夾らしい」

夾 :「俺達も楽しもうか?」

藍 :「遠慮しっ」

夾 :「決定事項だ」

藍 :「いやぁ〜」



結局その日も激しく抱かれた藍。
あの恥ずかしいDVDは、夾にとって、本当に必要なのかと疑問に思うのだった。


end.




[*前へ]

10/10ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!