記念作品 9 最後に残った斎と寧々は、盛大な溜め息を吐いて夾の帰りを待っている。 寧々:「そのDVDの内容って、さっきのでしょ?」 斎 :「そう。あれが世の中に流れたら…職を失っちゃうなぁ」 寧々:「いやいや。その前に恥ずかしいから!」 頭を抱える二人は、どうするかと相談し合っていた。 そんな時、藍を抱いた夾が、やっと戻ってきたのだ。 夾 :「後はお前達だけだ。帰らないのか?」 斎 :「夾、頼むからっ」 夾 :「仕方ない。と言うよりは…お前達のは撮っていない。面白くなかったのでな」 サラッと言い放った夾は、“だから帰れ”と言っていた。 事実を聞いた斎と寧々は、嬉しいのか嬉しくないのか微妙な所。 “面白くない”とは、はっきり言って失礼だ。 だが、夾だからこそ許せる言葉なのかもしれない。 斎 :「面白くない…ねぇ」 寧々:「いい!私達はこれでいい!」 斎の低い声音に、寧々は必死に言い募る。 日頃は穏やかだが、切り替わった時が恐ろしい人物。 言うなれば、白と黒だ。 夾 :「それほどまでに望むのなら、別撮りするか?俺が監督をしてもいい。なぁ、藍」 藍 :「私は嫌!だって…」 夾 :「あぁ、そう言えば…“あの”椅子が気に入っていたなぁ」 カタログ撮影での事を言っている二人だが、寧々にはサッパリ理解できない。 斎は、夾と藍の話など聞いていないのか、テレビを見ている。 寧々:「結構です!」 夾 :「残念だ。では、寧々の代わりに藍が攻められると言う事になるかな。勿論、相手は斎だが?」 藍 :「っ!・・・」 急いで反論しようとした藍だが、大きな手で口を押さえられ、言葉が出ない。 揺れる瞳で夾を見上げれば、完全に遊んでいる顔をしている。 本気じゃない… 絶対に寧々さんで遊んでる! すぐに理解した藍は、黙り込んだ寧々に視線を向けた。 その寧々は、究極の選択を迫られている顔をしている。 夾の言葉を真に受けているのだ。 夾 :「どうする?」 寧々:「AVは…」 夾 :「では特別に、下着着用可の撮影にしてやる」 寧々:「それなら」 夾 :「今の言葉、忘れるなよ」 勝ち誇った夾は、また何かを企んでいる。 藍は嫌そうな表情を浮かべて、そっと夾を盗み見た。 すると、黒い夾と目が合ってしまったのだ。 藍 :「その撮影って…」 夾 :「勿論、下着のカタログだ。瑠衣からフラれたので探していたが…手間が省けて良かったよ」 藍 :「嘘吐き!最初からそう仕向けたくせに!(そう、なんだ)」 夾 :「藍。心の声と口に出ている言葉が反対では?俺の姫は口が悪い様だなぁ」 真っ黒い羽が背中に見えた藍は、急いで夾の腕の中から飛びおりた。 そして後ろを振り向かず、一目散に逃げ出したのだ。 夾 :「おやおや。全く…手のかかる子だ」 そう言いながらも、嬉しそうな笑みを浮かべる夾。 獲物の捕獲を楽しんでいる様だ。 斎 :「夾。ほどほどにしておけよ」 夾 :「勿論心得ている。それより、早く帰れ」 斎 :「言われなくても」 笑い合う二人を見た寧々は、やはり同類だと再確認した。 この、何を考えているのか分からない顔が、本当にそっくりだ。 突っ立っている寧々に視線を向けた斎は、ニッコリと笑みを浮かべる。 斎 :「寧々、帰るよ」 寧々:「…うん」 寧々は既に進んでいる斎を、急いで追いかけた。 このタイミングで帰れる事には、心からホッとする。 斎 :「そう言えばカタログの撮影、引き受けたんだよね?」 寧々:「聞いてたの?」 斎 :「勿論。俺にお鉢が回ってこないよう、聞いてないフリをしてただけでね」 寧々:「狡っ!」 斎 :「夾と付き合うなら、これぐらい出来ないと。まぁ、引き受けたからには頑張って」 突き放す斎に、寧々は渋い顔をした。 自分の下着姿を、他の人に見られてもいいのかと言う思いだ。 その思いが伝わったのか、斎は口端を上げて笑った。 恥じらう寧々を見て、楽しもうと言う事なのだが、寧々には内緒。 今だに鬼畜ではないと思っているから。 一方、逃走中の藍は、書斎に逃げ込んでいた。 ここは唯一、鍵がかかる場所だから。 しかし夾を相手に、そんな手が通じるはずもなく、呆気なく撃沈する。 夾 :「夫を寝室から閉め出すのか?いけない子」 藍 :「っ!」 鍵を開ける事が可能な夾には、全く意味を成さない行為だった。 藍は夾を見つめながら、ゆっくりと後退する。 そのままの状態で後退していると、夾の仕事机にたどり着いた。 無意識に手を動かしていると、何かが当たり、思わずそれを掴んでしまった。 首を傾げて持ち上げ、それを見たと同時に、嫌な予感が広がる。 藍 :「これ…」 夾 :「お前が相手をしてくれない時のおかずだ。見るか?可愛い声で鳴く藍が映っている」 藍 :「まさか…ホームビデオって・・」 夾 :「ご名答。一応言うが、それを壊しても意味はないぞ。バックアップはしっかりしてあるからな」 顔を真っ赤にしている藍は、そんな事だろうと思い、壊す事はしなかった。 そんな事をすれば間違いなく、すぐ近くのお仕置き部屋に連れていかれるだけだから。 藍 :「絶対に誰にも見せない?」 夾 :「当たり前だろ。何故見せないといけない?そんな勿体ない事はしない」 藍 :「それなら、いい・・」 本当はよくないが、約束がある以上、納得するしかない藍。 勿論その約束も、夾の罠なのだが、藍が自ら気付く事は絶対にない。 夾 :「さて…最後の仕上げをしようかね」 藍 :「最後の仕上げ?」 夾 :「俺のシナリオ通りに動く奴らばかりで…本当に楽しいよ」 ニッコリと笑い、藍を抱き上げて椅子に座った夾は、PCを開いて編集を始めた。 それも、いつ撮ったのか分からないモノばかり。 関係のない事を喋っているが、何故か上手く繋がっていく。 その理由は、直ぐに理解できた。 藍 :「このナレーションて…」 夾 :「勿論俺だ。使えない部分は吹き替えもしたぞ」 嬉嬉とする夾は、その出来栄えに満足したのだった。 そしてそれが、皆の手元に届くのに、そう時間はかからなかった。 DVDの内容は、国王と囚われの姫の話。 使える部分はそのまま使い、使えない部分は編集をして完璧に仕上げていた。 それを見たメンバーは、思わず拍手をしたほど。 藍 :「夾ってさ…自分が楽しいと思う事には、徹底してるよね」 夾 :「当たり前だろ?人生は一度しかない。楽しまなければ損だ」 藍 :「うん…夾らしい」 夾 :「俺達も楽しもうか?」 藍 :「遠慮しっ」 夾 :「決定事項だ」 藍 :「いやぁ〜」 結局その日も激しく抱かれた藍。 あの恥ずかしいDVDは、夾にとって、本当に必要なのかと疑問に思うのだった。 end. [*前へ] [戻る] |