記念作品 4 後日。 招待状を持ってホテルに到着した夾と藍。 ロビーを歩きながら、周囲を見た藍が感想を口にした。 藍 :「凄い人だね〜」 隣でキョロキョロしている藍を見下ろす夾は、大丈夫だろうかと心配でたまらない。 いい歳の人間を心配するのもどうかと思うが、何せ相手は藍だ。 見た目より若く見える上に、陸也を産んでから更に妖艶さが増している。 目を離すとどうなるのか分かっているので、今日は特に疲れそうだと思いながら、藍の腰に腕を回してエスコートする。 藍 :「さっきから気になってるんだけど…夾って何処に居ても目立つよね」 夾 :「引っかかる物言いだな」 藍 :「だって・・・本当のことだとっ」 夾 :「縛るぞ」 耳元で囁かれた悪魔の言葉に、藍の躰がビクッと跳ねた。 そっと隣に視線を向けると、口角を上げて笑う魔王の顔。 藍 :「今のはなかったことで…」 夾 :「何だ。可愛がられる為のスパイスで言ったのかと思ったのだがな」 ククっと笑いながら本音を零した男に、藍は苦笑いしか出来なかった。 招待状を受付に渡して会場に入ると、直ぐに蓮と千鶴が近付いて来る。 蓮 :「ちゃんと来たな」 夾 :「出席すると言ったのですから、来るのは当然だと思いますが?」 蓮 :「まぁ、そうだな」 互いに笑いながら隣に目を向けると、やはり女同士、盛り上がっている。 千鶴:「藍ちゃん!可愛いわ〜!」 藍 :「ちゃんと着れてますか?」 千鶴:「バッチリよ!さすが私!いいモデルだから製作意欲が増すわ〜」 服を褒めているのか、着こなしている自分が褒められているのか…さっぱり分からない。 チラッと夾に視線を向けると、クスクスと小さく笑っているではないか。 ムカつく〜! どうせ私じゃなくて服の事ですよ! 周りにバレないよう、ヒールで夾の足を踏んだ藍。 痛いはずなのに、さすがは夾だ。 何事もなかったかのような顔をしている。 しかし、夾がこのまま流す男ではないのも事実。 顎を掴まれ、反論する暇も与えられず、唇を奪われてしまった。 藍 :「ん”〜ん”ん”ーーー」 一分は続いただろうか。 会場の入口付近での熱々な接吻に、周囲の視線を集めてしまった。 なかなか終わらないキスに、痺れを切らしたのは蓮だ。 軽い咳払いをして、夾に注意する。 蓮 :「夾。いい加減にしろ。ここを何処だと思っている?」 助けの言葉でやっと唇が離れ、藍はゼイゼイと荒い息を繰り返す。 蓮はそんな藍を見て、よくこの男について行けるなと思いながら、夾に視線を戻した。 夾 :「やれやれ。人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られますよ」 蓮 :「お前の冗談は通じない」 夾 :「冗談?心外ですね。本気で言っているのですが?」 クッと喉で笑う夾に、蓮はやれやれと肩を竦めた。 蓮 :「問題を起こさない範囲で楽しんでくれ」 夾 :「仕方ないですね」 釘を差した蓮は、千鶴を連れて挨拶周りに向かった。 息を整えた藍は、夾を睨み付けて言う。 藍 :「視線を集めたじゃない!夾の馬鹿!」 夾 :「それは好都合。お前が俺のモノだと周囲も理解しただろうからな」 藍 :「そうじゃなくてっ」 夾 :「これ以上何か言えば、今ここで抱くぞ」 最高の脅しに、結局口を閉じるしかなくなった藍は、唇を噛んで俯いた。 有言実行の夾に恐れたのもあるが、周囲の視線が痛すぎて、顔を上げる事が出来ないからだ。 周りなど気にもしていない夾は、ボーイから受け取ったグラスを藍に持たせた。 夾 :「シャンパンだ」 藍 :「飲んでいいの?」 夾 :「一杯だけならな」 飲める嬉しさに顔を上げた藍は、満面の笑みを浮かべた。 その顔を見て、心の中で溜め息を吐いた夾。 この顔がなぁ… 飲ませるのは失敗だったか? そう思うが、今更後には引けない雰囲気。 目を離さなければいいことだと自分に言い聞かせ、食べ物が並んでいる所に向かった。 早苗:「これウマっ!」 毎度お馴染み、ここにも周囲の視線を気にもしない人間が居る。 ガツガツと食べている早苗を、微笑ましく見ていた匠は、視界の隅に夾と藍の姿を捉えた。 それは夾も同じで、食事が並ぶテーブルに藍を置いて、壁際に居る匠の元へ足を運ぶ。 匠 :「ちゃんと来たのですね」 夾 :「お前も蓮さんも…いったい、俺をどんな人間だと思っている?」 匠 :「それは言えませんよ。座りますか?」 夾 :「あぁ」 今日は立食パーティーだが、会場の壁際に数カ所、椅子が置かれている。 その一角の椅子に座っている匠の隣に腰を下ろした夾は、藍と早苗に視線を向けた。 夾 :「よく食べる子だな」 匠 :「それしか楽しみはないでしょうからね。藍さんは…少食のようですね」 一応皿を持っている藍だが、まだ何も乗っていない。 反対に早苗の皿には、色々な物が乗っている。 夾 :「対照的だな」 匠 :「ですね」 クスクスと笑った匠は、周囲を見渡し、思った事を口にする。 匠 :「貴方が来るのも珍しいですが…藍さんはもっとですね。男達が目を離せずにいる」 夾 :「まるで珍獣のようだな」 匠 :「貴方が普段隠している宝が、公の場に居るのだから、気にならないと言うのは難しいと思いますよ」 夾 :「それはお前も同じだ」 互いに苦笑いしか出来ない内容だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |