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記念作品

汗を流した為か点滴が効いたのか、熱が下がった夾はキッチンで水を飲み、リビングに向かった。
ドアを開けてビックリ。
てっきり帰ったと思っていた奴等が、まだ居座っていたのだ。
しかも、渡したDVDをガチで見ていて、あられもない声が鮮明に聞こえる。



夾 :「二時間以上経っているはずだが?」

斎 :「いや…これには事情があって…」

夾 :「は?」



首を傾げながら何気無くローチェストに視線を向けた夾は、一瞬で鋭い目付きになった。
それは決して見てはいけないモノ。

夾の雰囲気が変わったと気付いた辰実が、重い声で言う。



辰実:「すまん。パンドラの箱を開けてしまった」

夾 :「パンドラねぇ…全て見たのか?」

相沢:「全て見ましたが、態とらしい編集でしたね。肝心な部分は映っていませんでしたよ。まぁそれを見た日には、この世から抹殺されるでしょうが」



空気を読まない相沢の言葉に、夾以外の全員が息を飲んだ。
頼むからこれ以上刺激しないでくれと、誰もが俯いているか視線を逸らしている。



夾 :「お前ならそう言うと思った。際どいモノばかりだったろう?」



いや、こちらも常識はずれの事を口にした。
恐ろしい雰囲気から、柔らかいモノに変わったのは喜ばしいのだが、そう言う問題なのかと言いたい。

チェストの引き出しに、隠していたレーベルのないDVD。
今思えば、隠している“ような”仕舞い方だった。
夾なら何かエッチなモノを隠していると思った睦月が、リビングの中をくまなく探して出てきたのがこれだったのだ。
それを興味本意に再生したのが間違い。
テレビに流れたモノは、藍の微妙に妖しい映像だったのだ。
直ぐに消せば済む話だったにも関わらず見続けてしまったのは、藍があまりにも可愛いコスプレをしていたのと、かなり危ないシーンに見入ってしまったから。
結果、夾に借りたDVDを見たのはつい先程からだ。



夾 :「まさかそれを見つけるとはなぁ。一応、隠していたのに」

辰実:「嘘を言うな。簡単に見付かったぞ。そもそも、お前は堂々と置いているだろ。例のコレクション棚のように」

斎 :「そうそう。夾が本気で隠したモノなら、他人には絶対に分からないはずだ」

夾 :「当然だ。見られてもいいからそこに置いていた。そもそも、それを見つけるのは藍の仕事だったのにな」



今の言葉で、夾が何故分かりやすい場所に置いていたのかが分かった。
藍を怒らせて、あれやこれやをするつもりだったのだろう。
こう言う男だと肩を落とした面々は、あまりにも藍が可哀想ではないかと思ったのだが、見て見ぬフリをしようと心に誓う。



相沢:「藍様のお宝映像の数々でしたが、裸はなかったですね。まぁ、下着はつけていなかったようですが」

夾 :「酒のつまみには、それくらいで丁度いい。抜きたい時はもっと…な」



口角を上げて笑う夾に、誰もが“マジの映像があるな”と確信した。
この屋敷にはたくさんのAVがあるにも関わらず、見るのは藍のモノだけなのだろう。



睦月:「姫はそのこと知ってるの?」

夾 :「写真は知っているが、動画は知らないはずだ。隠しカメラで録画しているからな」

睦月:「うわ〜!旦那が犯罪者って…」

寧々:「それも問題だけど、何で写真があるって知ってるのに藍は何も言わないわけ?おかしいでしょ!」

夾 :「厳重にロックしてるからな。削除も難しいだろう。まぁ消した所でまたやると分かっているから放っているのだろうがな」



それもどうかと思う、と顔に出している面々。
だが、夾がいちいち気にするような性格ではない。
何食わぬ顔をして、ソファーに座る辰実の隣に腰を下ろした。
風邪は治ったのか、普段と変わらぬ姿だ。



辰実:「熱は下がったのか?」

夾 :「あぁ。少し運動して汗を流したら、すっかり良くなった」

斎 :「…抱いたのか」

夾 :「色々あってな。不可抗力だ」



クスクス笑う夾に、ゾッとする一同。
真っ直ぐ前を見つめ、先程の事を思い出しているのだろう。
それを見ただけで、熱があるにも関わらず、酷い抱き方をしたに違いないと言いきれる。



相沢:「仲直りしたようですね。藍様は言葉を選ばない上に、周りを見ない方ですからね」

夾 :「お前が余計な事を言うからだろ。ん?瑠衣の様子が…あぁ、なるほど」



何が分かったのか、瑠衣と相沢を交互に見て笑う夾。
その意味が分からないのは、睦月と寧々、そして相沢だった。
辰実と斎はそ知らぬ顔をしている。

瑠衣をちゃんと見た相沢は、目付きを鋭いモノへと変えて立ち上がった。
集まった人間が人間なだけに、安心していたので見落としていた。
怯える瑠衣の腕を引っ張って立たせ、物も言わずに部屋から姿を消したのだ。

ドアが閉まり、余計な事を言ったと察した夾。



夾 :「死ななければいいがな」

辰実:「まぁ、どうにでもなる」

斎 :「だな。生きるか死ぬかは瑠衣次第ってね」



夾の言葉も問題だが、悪戯をした当事者の二人の方がもっと問題だ。
睦月と寧々は、相沢が怒った理由は分かっていないが、辰実と斎の発言を人としてどうなのかと問う。



睦月:「今の会話、人として最低だと思うけど?」

寧々:「うん…私も同じ意見」

辰実:「人間は生まれた瞬間から、死に向かっている。遅かれ早かれ、結果は同じだ」

斎 :「そうそう。限られた時間の中で、面白可笑しく生きないともったいないでしょ」

夾 :「そう言う事か…お前達の言う、面白可笑しく生きたい願望に、瑠衣が餌食になったとはな」

睦月:「理解出来ないんだけど…」

藍 :「瑠衣さんで遊んだんだ…だから相沢さんのあの顔ね」



突然の藍の登場に、睦月と寧々は驚いて振り返った。
夾達は気付いていたのか、全く表情を変えない。



睦月:「って…何で浴衣?」

藍 :「最近夾がハマってて…帯は簡単なのモノだよ」

睦月:「いや、帯の話はどうでもいいんだけど…」

寧々:「何かエロい!」

夾 :「妖艶と言ってくれ。藍、おいで」



若干辛そうに歩く藍は、夾から伸ばされた手に自分の手を重ねる。
夾はその手をギュッと握り、引き寄せて膝の上に座らせた。



睦月:「姫…フラフラしてるけど、喧嘩した理由は何? 」

夾 :「俺が居なくても、一人で生きていけると豪語してな」



相沢のあの発言が原因だと分かった睦月達は、藍を見て溜め息を吐く。



辰実:「姫が一人でね。夾、お前もおちおち死ねんな」

夾 :「これを残しては逝けない。成仏出来そうにないしなぁ」

斎 :「でも実際問題、そうなったらどうするわけ?」

夾 :「子供が出来ればまた違うだろうが…現状は一緒にと考えている」

藍 :「嫌!夾より先に死にたくないよ!」

夾 :「何故?」

藍 :「世間に迷惑かけるから!」



藍の言葉に、誰もが“よく言った!”と思って大きく頷く。
しかし…どちらが残っても大変なのは事実だ。
現実ではないが、つい考えてしまった辰実と斎に、睦月と寧々が笑い話にする。



睦月:「男を先に残して死ねないと思うのは女の考えよね〜。子供に迷惑かけるし」

寧々:「まぁいいんじゃない?藍の周りには、言われなくても面倒見る人が居るんだしさ」

睦月:「あぁ、そうだね。リーが絶対に引き取るって言うよ」

寧々:「真田さんもじゃない?」

睦月:「言えてる〜!」

寧々:「東堂の方も出てくるよ。奪い合いに発展?」

睦月:「そうなったら、事件になりそうじゃん!うわ〜!超楽しそう」

寧々:「姫の争奪戦かぁ」


ケラケラ笑う二人の声に重なるように、妖しい声が聞こえてきた。
夾が来て停止していたDVDが、再生を再開したのだ。
驚いたのは、夾の膝の上に座っている藍。
目を見開き、テレビと夾を交互に見る。






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あきゅろす。
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