[通常モード] [URL送信]

記念作品

夾 :「で?婚約は解消しないと言う事でいいんだな?」

陸也:「あぁ」

夾 :「だ、そうだぞ。相沢」



無表情だが、眼鏡の奥から陸也を睨み付けている相沢。
娘の壹瑠が陸也を好いている事は知っていたが、まさか陸也も壹瑠を好きだとは思っていなかった。
父親としては、可愛がってきた娘を奪った男に、苛立ちをぶつけるのは当然。
いくら上司の息子でも関係ない。



相沢:「最悪ですね。まさか夾様と親族になるとは」

夾 :「その言葉、そっくりそのまま返す」

相沢:「元はと言えば夾様の所為ですよ。軽いノリで許嫁にしようと言い出したのが原因なのですから」



ネチネチ文句を言い始めた相沢の言葉を、右から左に聞き流す夾。
長年の付き合いにもなると、そこら辺はお手の物だ。
一方の陸也は、壹瑠の親と言うこともあって、聞き流す事が出来ない。
かれこれ30分は聞いていただろうか。
有難いタイミングで現れた藍に、助かったと立ち上がった陸也。
勿論、表情には微塵も出さずに。



藍 :「?…ご飯の準備出来たよ」

相沢:「仕方ないですね。今日はこの辺で止めておきましょう」



あっさり引いた相沢に、陸也は“このおっさん!”と心の中で呟いた。
藍に強く出れないのは、藍自身ではなく、背後の人物達を敵に回したくないからだ。
こんな所だけは要領がよく、感心してしまう。


藍のお陰で助かった…


これほど藍に感謝する時はない。
そんな事を思いながら、夾と藍の背中を見ながらリビングに入った。


夾の号令でこの別荘に集まったのは、九条家は勿論、相沢家と浅野家の面々だ。
何故か一ヶ月に一度は集まり、遊びに出掛けたり、食事をしたりしている。



藍 :「斎さん、残念だったね」

夾 :「風邪だからな。来てうつされても困る」

藍 :「まぁ…そうなんだけど」

夾 :「馬鹿は風邪をひかないと言うが、あれは嘘だな」

辰実:「馬鹿すぎたんだろ」

睦月:「辰実!居ない人の事を悪く言わないの」



辰実の頭を軽く叩いた睦月に、藍はクスクス笑う。



藍 :「相変わらず仲良いね」

睦月:「それ、姫にだけは言われたくないわ。未だに手を繋いで歩いてるじゃない」

藍 :「繋いでない時の方が多いって。睦月ちゃんが目にする時ばかり、手を繋いでるだけじゃない?」



本当にそうだろうかと、2人の子供達に視線を向けた睦月。
どの子も首を振っている所を見れば、いつも手を繋いでいるは間違いなさそうだ。
しかしそこは長年の付き合いで学んだ結果、追求はしない方が賢明だと知っている。



睦月:「まぁいいけどね。ご飯食べよ!」

藍 :「そうだね」



それから始まった食事会は、毎度の事ながら凄かった。
お決まりの、夾の悪戯の所為だ。
この人数だと言うのに量が極端に少ない上、いくつかの寿司には大量の山葵が入っていたりする。
しかも上手く隠しているのだから、夾の悪戯は本当に昔から徹底している。

勿論、自分と藍と聖華の分だけは、ちゃっかり別に用意しているのだ。
タダなので何も言えないのをいいことに、やりたい放題。
分かっているのにわざわざ出向くのは、夾を怒らせて仕返しをされない為。



睦月:「夾ってさ、色々な意味で徹底してるよね」

瑠衣:「慣れれば楽しいと思います」

藍 :「瑠衣さん、食べて来たでしょ?」

瑠衣:「少しですが。聡が絶対に何かあると言ったので」

睦月:「だよね。ウチも同じ。ただ…子供に言い忘れてたわ」



ハハハと笑う睦月は、欲を出してハズレを食べてしまったのか、涙を流して嗚咽を溢している龍也に無言で手を合わせる。
自分達は慣れている為、子供に注意するのをすっかり忘れていたのだ。



藍 :「私も言い忘れてた。まぁ、ウチの子は慣れてるから大丈夫みたいだけど。でも、子供っていつまでも純粋だねぇ」

瑠衣:「欲を出した結果ですね。可哀想ですが…」

睦月:「そのうち馴れるって」



ケラケラ笑っている睦月に、苦笑いを浮かべた藍と瑠衣。
これほど夾の性格を知っていて良かったことはない。

3人で談笑していると、蒼空と壹瑠が輪に入ってきた。


《女の会話》

蒼空:「ママはパパの何処が好きなの?」

藍 :「ん〜何処だろう?」



本気で言っているのか、首を傾げる藍に、睦月と瑠衣は小さく笑った。
昔からよく聞かれているのだが、藍がこれと言った答えを出したことはない。

私は知らないと言う風にしていると、矛先がこちらに向いた。



蒼空:「じゃぁ、睦月ちゃんは?」

睦月:「蒼空ちゃん…未来の母に向かって何を聞いちゃってるの?」

蒼空:「だって知りたい。辰実さんって表情がないから怖くて…」



それは分かると思った睦月は、仕方なさそうに語る。



睦月:「私が辰実を好きな理由でしょ?まぁ…ちゃんと怒ってくれる所かな」

蒼空:「怒る?睦月ちゃんってそう言う趣味っ」

睦月:「違う!断じて私にそんな趣味はないから!」



必死に否定する睦月を見て、蒼空は“本当に?”と言う顔をした。
クスクス笑う藍と瑠衣を睨んだ睦月は、蒼空に分かるよう説明する。



睦月:「昔は躰弱くてさ、色々嫌になってたのね。腫れ物みたいな扱いされてたんだけど、辰実だけは本気で怒ってくれてさぁ。まぁ…その怒り方に色々問題はあるんだけど・・」

蒼空:「辰実さんが怒る所なんて想像出来ない。壹はどう?」

壹瑠:「私も想像出来ません」

藍 :「睦月ちゃんの方が惚れてるのよねぇ」

睦月:「否定はしない」

蒼空:「じゃぁ、瑠衣さんは相沢さんの何処が好き?」

壹瑠:「それは私も知りたいです。仕事しか出来ない人ですから…」

瑠衣:「真面目な所ですね」

藍 :「昔は総長してて、地元では今でも伝説の男って言われてるけどね」

睦月:「あの相沢が元不良なんて…人間、分かんないもんだよねぇ」



笑って言う内容ではないと思った蒼空と壹瑠。
あの相沢が不良だったなど初耳だ。
今では想像も出来ないほどの堅物なのに…



蒼空:「恐っ!」

壹瑠:「怒らせないようにします!」

蒼空:「で、ママは?」

藍 :「う〜ん、そうだねぇ…」

蒼空:「子供の私から見ても、パパって微妙だよ?」

藍 :「例えば?」

蒼空:「顔は良いけど、性格に問題がある」

睦月:「違う違う。性格じゃなくて性癖」

瑠衣:「私も同じ意見です」



誰もが頷いた瞬間だ。
ただ…性格も微妙なのだが、性癖の方が遥かにと言った感じだ。



藍 :「まぁそこら辺は置いておいて。一緒に居て飽きない所かなぁ」

蒼空:「ママ…変わってる」

藍 :「知ってる。でも、頼りになる男なの」



微笑んだ藍は、チラッと夾に視線を向けた。
向こうも向こうで、何やら盛り上がっているようだ。






[*前へ][次へ#]

7/12ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!