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記念作品

相沢が口にした通り、ものの数分で終えた二人。
相沢が8本を投げた後、瑠衣が自力で2本を投げた。



夾 :「手伝いなしとは、厳しいな」

相沢:「あれくらい一人で出来ます。私は夾様の様に甘くはありません」

夾 :「俺が甘い?」

相沢:「えぇ、それはもう。しかし…藍様相手ですと、それくらいが調度良いと思います」



夾はフッと笑い、グラスに口をつける。
藍を甘やかしている自覚はあるが、他人からもそう見えていたのかと、初めて知ったのだ。


まぁ、うちはうちだな。
藍は甘やかして育てる方が成長するはずだ…


今までが厳しくしてきた為、今後は甘やかそうと思っている夾。
しかし今までも、充分甘かったのだ。
これ以上は、無理ではないだろうかと思うメンバー達。


それぞれが“駄目な夫だ”と溜め息を吐き、次は相沢家と同じ方針で、辰実と睦月が矢を投げた。
辰実は勿論完璧だったが、睦月はまぁまぁと言った所。



辰実:「下手くそ」

睦月:「そう言うなら、夾みたいに手伝ってくれればいいじゃん!」

辰実:「俺が甘やかすとでも?」



絶対にありえないと分かっている為、返答出来ない睦月は、グッと堪えてそっぽを向いた。
そして瑠衣の隣に腰を下ろし、グラスの酒を一気に飲み干す。


クソジジイ!


悪態を吐いていた睦月は、藍が居ない事に気付いた。



睦月:「姫は?」

夾 :「手洗いに行った。そろそろ帰って来るだろう」



夾の膝の上に居た藍は、相沢と瑠衣が投げている間に、トイレに行っていた。
さすがについていけなかったのか、夾は心配そうにドアを見つめている。



睦月:「気になるなら迎えに行けばいいのに」

瑠衣:「さすがにここでは難しいかと思います。それでなくても、夾様は目立っていますし…」



確かに、豪華な顔ぶれが集まる一角は、注目の的となっている。
それに加えて、夾と辰実の腕の凄さに、周囲は遊ぶ事も忘れて見入っているのだ。


それから少しして、やっと藍が戻ってきた。
しかし、その足取りはかなり危ないモノ。
今は斎と寧々が投げているが、吸い寄せられる様に的へと向かっている。

皆が危ないと思った時には、既に遅かった。


斎と寧々は遊ぶ事に必死で、藍が近付いて来ている事には気付いていない。
そして、持っていた矢を放ってしまったのだ。



夾 :「藍!」



夾の声に顔を動かした藍の頬を、斎の放った矢が掠めた。
白い頬に、ツーと赤い血が流れる。


ヤバイと思ったのは、斎だけではない。
他のメンバーは、少しずつ後退し、逃げる為の準備をする。



藍 :「あれ…?」

夾 :「藍、お前の説教は後だ。斎!」

斎 :「夾、落ち着け!話せば分かる」



もの凄く恐ろしい形相の夾は、地響きがしそうな足取りで、斎を追い込んでいく。
その斎も、青い顔をして後退する。



睦月:「マズくない?」

辰実:「マズいが、近付かない方がいい。殺される」

相沢:「賢明です。藍様を傷付けた人間に待つモノは…死、のみです」

瑠衣:「寧々さんが・・固まっています」



夾と斎に一番近い寧々は、微動だにせず二人を見つめている。
そして傷を作った藍はと言うと…



藍 :「あれ?まぁ、一週間くらいで治るかなぁ」



などと、呑気な事を口にしていた。
夾の恐ろしさを知っている否、慣れているのか、大した驚きはない。
ヘラヘラと笑いながら、避難している者達の元に。



睦月:「姫!来ないで!」

藍 :「どうして…そんな事、言うの?」



酔いが覚めていないのか、睦月の言葉に涙を流す。


二次災害とはこのことだろう。
泣かせた睦月は勿論、他の者達も動揺を隠せないでいる。
いつこちらに、とばっちりが来るか分からない状況だ。



斎 :「夾!藍が泣いてる!」



必死の斎は、夾の後ろの藍を指差し、背後の状況を伝えた。
その夾は、振り返って泣いている藍を目にとめる。



夾 :「ほぉ。お前達、いい根性をしているな。俺の藍を傷付けた上に、泣かせるとは…」



冷たい瞳で、もの凄く低い声を発した夾に、一同は凍り付いた。
それは勿論、傍観している周囲とて同じだ。
バーの中は、落ち着いた音楽だけが流れ、人の声は一切聞こえなくなった。


そんな時、落ち着いた雰囲気の男が夾に近付いてきた。



男 :「夾様、落ち着いて下さい。オーナーのあなたが営業妨害をしてどうします?」

夾 :「史郎(しろう)か。お前が直々に来るとはな」

史郎:「スタッフから助けを求められたモノで。お部屋をご用意しましたので、そちらに移動していただけますか?」

夾 :「仕方ない。おい、行くぞ」



有無を言わせない言葉に、一同は何度も頷き、夾と史郎の後を追う。

嵐が去った事で、店内はいつもの雰囲気に戻った。
しかし、夾のあの恐ろしさだけは、決して忘れる事が出来ないだろう。
今夜、夢を見るかもしれないと思う者もいたほどだった。






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