契約 【完】(★★★☆☆)
9
扉が開いたと思えば口端をあげ、ネクタイを緩めながら相馬が入ってきた。
縛られている杏奈は動く事が出来ない悔しさに、心の中で舌打ちをする。
そして些細な抵抗だと分かっていながらも、相馬が居る方向とは逆の方に顔を向けた。
ほぉ…
どこまでも反抗的だな。
杏奈の態度に、それでこそやり甲斐があると笑みを浮かべた相馬。
外したネクタイを手に持ち、ベッドに括り付けられている杏奈に近付きながら言う。
「さて…時間をかけて躾直そうかね。まずは、名前を呼ぶことからだ」
「相馬さん」
「…それは名字だ。いつからこんなひねくれ者になったのかねぇ」
態とらしい溜め息に、“お前の所為だ!”と言いたかった杏奈だが、さすがに今は勇気がない。
横になっている、杏奈の肩の位置に腰を下ろした相馬は、大きな手を頬に添えて上半身を折る。
クッ…
この甘い顔は良くない事を考えてる!
迫力のある綺麗な顔で見下ろされ、目を見開いた杏奈。
何年も相馬を見ているので、偽りの笑みは知っているつもりだ。
甘い笑みをしている時ほど、相馬が怒っている証拠。
無意識に唇が震えていたと気付いたのは、相馬が親指で撫でた時だった。
しかも、意地の悪い顔をして。
「怖いのか?」
「ま…さか」
もっとはっきり言うつもりだったが、思いの外小さく、突っ掛かった物言いになってしまった。
それが面白かったのか、ククっと喉を震わせて相馬が笑う。
杏奈の頬を軽く二回ほど叩き、手を離した。
「可愛い奴。一度乱れてしまえば、誰彼構わずに腰を振るくせにな」
「っ…」
覚えのあることだっただけに、言い返せない杏奈は、口を引き結んで黙りこんだ。
「言い訳もしてくれないとは…この際だから言うが、浮気を許したわけではないぞ」
「…はぁ?あんなことしといてっ」
「あんなこと?あぁ…部下に抱かせたことか?あれは単なるお仕置きだ。次はないぞ、と言うな」
それにしては酷かったと思うが、何も言わない方が賢明だ。
学習している杏奈は口答えせず、相馬の機嫌が直るまでは我慢だと自分に言い聞かせる。
分かりやす性格だ…
杏奈が何を考えているか分かる相馬は、肩を竦めてベッドに上がった。
不安そうな顔をしている杏奈に覆い被さり、細い顎を掴む。
そして満面の笑みを浮かべ、浅はかな考えの杏奈に忠告した。
「機嫌が直るまでと思っているようだが、一生許さない。お前の命の炎が消えるまで償ってもらう」
「…横暴だと思います!」
「だから何だ?心配しなくても、お前の事は愛しているし大切にする。ただ、浮気を許すかと言うのはまた別の話だ」
「よく分かんないけど…結婚しても離婚はしないって事?」
「そう言う事だ。で、俺の名前は?」
「貴っ…」
半分までいった所で乗せられたと気付いた杏奈は、急いで口を閉じた。
「強情だな…言わなかったこと、後悔させてやる」
「これ!解いて、あっ…」
キャミソールの上から、胸に噛みついた相馬。
突然の刺激に、杏奈の躰が跳び跳ねる。
緒方さんの馬鹿〜!
あっと言う間に緒方から服を脱がされ、キャミソールとショーツ姿で縛られた結果がこれだ。
しかもご丁寧に、ブラも外されている。
直にではないが、布一枚の刺激は想像よりも凄くゾクゾクした。
相変わらず、快楽に弱い躰だな…
胸の突起を舐めたり噛んだりすればするほど、白い躰がシーツの上を泳ぐ。
杏奈が付き合った男達の顔が脳裏に浮かび、無意識に歯に力が入っていたのか、頭上から苦痛の声が聞こえた。
「いっ…」
「俺以外の男に抱かれた時、ちゃんとイケたか?」
「言いたくなっ!うっ…」
言わない罰だと言う風に、胸の突起を力強く摘ままれた。
「正直に言わなければ、更に痛みを加えるぞ」
「痛っ!言う、言うから!んっ…はあ、はぁ・・・」
あまりの痛さに耐えられなかった杏奈は、あっさり敗けを認める。
涙目で相馬を睨み付けながらも、正直に答えた。
「イケ…なかった」
最後は物凄く小さな声だったが、相馬にはしっかり伝わったらしい。
聞いた瞬間、今までにないくらいの笑みを浮かべている。
「だろうな。若い男にこの躰を満足させられるはずがない」
「分かってるなら聞かないでよ!」
「確認しただけだ」
「あっ!んっ…」
杏奈の回答に満足した相馬は、ショーツの中に手を忍ばせた。
目的のモノを探し当て、人差し指で刺激する。
「ぃぁ、あぁっ・・・」
「少し刺激しただけで…ほら、もうこんなに大きくなった。腰、揺れてるぞ」
クリを撫で回し、大きさを変えていく相馬の意地悪な指。
そこが弱い杏奈の腰は、勝手に揺れていた。
まるで、もっとと強請るように。
杏奈を酔わせながら親指に替えた相馬は、その下にある秘部に人差し指で触れた。
そこは既に濡れていて、少し撫でただけで卑猥な水音がする。
「厭らしい子だ。ここの音が聞こえるか?」
「聞こえ、なっ!あぁぁ…んっ」
「何もしていないのに、俺の指を二本も咥えたぞ。あぁ…中がヒクヒクしている。分かるか?」
卑猥な言葉のオンパレードに、耳を塞ぎたいが、今の状態がそれを許さない。
抜き差しが速くなったと思えば、焦らすようにゆっくりになる。
中の感じる場所を知っているくせに、態とそこだけを外して遊ぶ男。
前はもっと淡々としてたじゃん!
何、この変わりよう…
こんなに意地悪な男だっただろうかと、薄く目を開けた杏奈は、言葉が出ずに固まってしまった。
いつも瞳を閉じていたので、相馬がどんな表情をしていたのかを知らなかったのだ。
「な、何で笑ってるの?」
「そりゃ、俺の攻めに泣いて喜んでいる杏奈を見れて、嬉しいと思わないわけがないだろ」
「いつも…」
「今までは、私は遊ばれている。何も見ない。早く終わって…と言う顔をしていた。それが、今は違う表情だ」
「だって!やぁぁぁ…そこ、ダメ・・・」
中にある指が曲がり、敏感な場所だけを擦られ、杏奈は嫌々と首を振って止めてと訴えた。
しかし本音ではないと分かっている手が、緩まる事はない。
甘い声を発しながら、知らず知らず腰がベッドから離れていく。
「んっ、あぁ…ダメ・・イっちゃ!あぁぁぁぁーーー・・・」
「いい子。上手に鳴けたな」
フフっと笑って杏奈の頭を撫でた相馬は、潮でベトベトになったショーツを脱がせて縄を解いた。
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