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契約 【完】(★★★☆☆)

もうすぐ夜の10時。
バイトが終わる時間に、レジのお金を次のバイトの人と一緒に数えている杏奈。
全てが終わりバックで着替え、荷物を持って店内に戻る。
するとドアの外に、約束通り緒方が客の出入りに邪魔にならないように立っていた。



「あの客、上田の知り合い?何かさっきからずっと居んだけど」

「まぁ…知り合いと言えばそうですね。お疲れ様でした」

「お疲れ様〜」



頭を下げて出ると、直ぐに緒方が車へと誘導していく。



「私バイクなんだけど。一回帰ってもいい?」

「鍵をお貸し下さい。責任を持って自宅まで運んでおきます」

「…見逃してはくれないんだ」

「申し訳ありません。今回は無理です」



痛ましいような顔で杏奈を見た緒方だが、今回は杏奈の意思を無視するしかない。
自分とて、主には逆らえないのだ。

促されるまま車の後部席に乗り込んだ杏奈は、そこに乗っていた人物に目を見開いた。
まさか車内に居るとは思いもしなかったから。



「一ヶ月振りだな、杏奈」

「相馬…様」

「何だ。貴之、と呼んでくれないのか?」

「ご冗談を。結婚した方を呼び捨てには出来ません」

「相変わらずだな」



無言になった車がゆっくりと走り出した。

無駄に長い足を組んでいる隣の男は、相馬貴之30歳。
何をしている人なのかは話してくれないので知らない。
ただ、金持ちで綺麗な顔で長身と言う正に雲の上の存在だ。
子供を相手にするような人ではないと言うのは確かだろう。

それに、18歳の自分と30歳の男が釣り合うわけがない。
いや、元々住んでいる世界が違うのだ。
母子家庭で庶民の自分と、金持ちの由緒正しい家の長男なのだから。


昔よく遊んでもらっていた人が、まさか金持ちのお坊ちゃまだと知ったのは、杏奈が中学の時だ。
それまでは、ただ変わった人だなと子供ながらに思っていた。
大人なのに子供の相手をしてくれるなんて、と。

都会育ちの人がどうしてこんな田舎にと思い、いつも一緒に居る緒方に聞いた事で一度喧嘩になったが、その時は直ぐに仲直りした。
緒方の説明を補うよう、自ら話してくれたのだ。
親の言いなりになるのに反発し、一度頭を冷やそうと家を出たと言う。
その時に遊び相手になってくれたのが、この男だ。


杏奈が中学の生活に慣れた頃、突然実家に帰ると言ってきた時はショックだった。
しかし、引き止めるわけにはいかない。
涙を隠して笑顔で見送ろうとしていると、杏奈にネックレスをかけながらこう言った。
“直ぐに迎えに来る。それまで、待っていてくれ”と。
自分の気持ちが恋心だと分かっていた杏奈は、素直に頷いたのだった。


それから一年後。
再び姿を見せた相馬だが、一年前と雰囲気が変わっていた。
何処か疲れているような、疲労感たっぷりで少し顔色が悪い。
それが何度もとなると、子供ながらに心配もする。

再び会うようになって何度目かの時、心配そうに見つめていると、強い力で車のシートに押し倒された。
そしてそのまま、初めてを奪われたのだ。
痛いと何度も抵抗したが、力で捩じ伏せられ、最後の方は記憶がない。

翌日には姿を消し、残っていた緒方から相馬の結婚話を聞いた。
由緒正しい人間には、同等の人間しか認められないと、この時本当の意味で理解したのだ。


杏奈に土下座をして分かってくれと言った緒方に、身を引く決心をした杏奈。
別れを相馬に言えば、絶対に認めと言い、結局は関係を絶つ事が出来なかった。
離れていこうとする杏奈を力と躰で縛り、自分のモノだと言い続けた相馬。
このままでは自分が壊れると思い、ある事をお願いした。
それが、この間系は高校までで終わらせてほしいと。
今はまだ、親元に居なければ何も出来ないが、高校を出れば自分一人の力で何処にでも行ける。


杏奈の真剣な表情に、分かったと頷いた相馬の態度は、その日から大きく変わった。
2人の間には契約が生まれ、相馬は月に一度のペースで杏奈の所に来ては、激しく貪って帰る。
これの繰り返しが、杏奈にとってはとても辛い。


静まり返る車内で回想していた杏奈は、確認の為に口を開いた。



「卒業式まであとちょっとか…」

「だから何だ?」

「ちゃんと約束は守って。奥さん、大事でしょ?」



眉間に皺を寄せ、複雑そうな顔をしている相馬。
この言葉には、運転している緒方もハンドルに力を入れたほどだ。



「もう…お前を自由にするべきだな」

「うん」



俯いて頷いている杏奈をシートに押し倒した相馬は、ネクタイを緩めて両手を拘束した。



「しかしまぁ、男癖の悪い女になったな。次から次に…俺は許した覚えはないぞ」

「あんたに言われたくない!っ・・・」



頬を叩かれた杏奈の口端から、真っ赤な血が流れる。
喋っていた時に叩かれ、唇を切ってしまったのだ。


こんな男なんか…
好きになるんじゃなかった!


自分でも馬鹿だと思う。
望みもない男を好きでどうするのか。
だから違う男と恋をしようと、告白されては付き合い、その人を好きになろうと努力した。
しかし心の何処かで、この人は違うと思ってしまうのだ。
何度も同じ事を繰り返しては違い、今はもう、恋をする事が面倒になった。


大人しくなった杏奈の口端を嘗め、舌で血を拭った相馬。



「契約期間は、俺だけのモノだと言ったはずだ。それがこうも破られるとはな。緒方が隠していたはずだ」

「え?」

「何故今になってと思っているだろ?原因は緒方だよ。ずっと俺に隠していた。調査書を見て違和感を覚え、探偵に依頼したらこれだ」

「緒方さんが…」






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あきゅろす。
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