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契約 【完】(★★★☆☆)
12
一緒に暮らしだし、あっという間に冬休みが終わった。
特に今までと変わった所はない。
ただ、食べるのに困らないのと、何故かお小遣いが貰えると言う所だけだ。


ん〜バイトがなくて楽だけど…
暇だなぁ・・・


そんな事を思いながら、午前の授業を受けていると、何やら嫌な予感がした。
数分後、それは現実のモノとなる。



「失礼します」



心地好い低音を発しながら、教室のドアを開けたのは…緒方ではなく相馬だ。


目立つんだけど!
ってか、何しに来てんだ!


ガタンっと椅子から立ち上がった杏奈は、急いで廊下に出た。
今度はちゃんとドアを閉めて。
それでも、目立っている事には変わりない。
クラスメイトは興味津々に、わざわざ顔を出しているのだ。



「何で来たの?」

「そんなに嫌がらなくてもいいだろ。弁当を忘れてたから持って来てやったと言うのに」

「学食に行けばいいだけでしょ!」

「食堂があるのか?」



キョロキョロしながら、食堂を探している相馬だが、恐らく思い描いているモノとは違うはずだ。
このお坊っちゃんには、絶対に口に合わないだろう。


って言うか…
あんたは存在自体が派手なんです!


明白に迷惑だと訴えていると、相馬がニッコリと笑った。
そして、今まで気付かなかったある存在に気付く。



「…誰?」

「お前は…自分の学校の校長も知らないのか?」

「…あぁ、校長ね。って何で一緒に居るの?」

「就職先を何処か紹介してくれとお願いされた。下請けならそれなりにあるからな」

「へぇ。この御時世にねぇ」



杏奈は校長をしげしげと見つめ、何度もふ〜んと言った。
進学校でもなく、かと言ってこの御時世に就職先もないのがこの学校だ。
もうすぐ卒業だと言うのに、就職先が決まってない生徒はゴロゴロ居る。


校長も大変だな…
まぁ私も、就職先が決まってない一人なんだけど・・


溜め息を吐いていると、心を読んだのか、笑顔で相馬が言った。



「お前は就職先決まってるだろ?二つの意味で」



その瞬間、教室中から“マジで”や“いいなぁ”と言う声が広がった。


今の…
皆よく聞こえたなぁ・・


大きな声ではなかったと言うのに、クラスメイトにはしっかり届いていた。
やはり就職先の話は、誰もが敏感になっているようだ。



「どうでもいいから帰って」

「永久就職が決まっていると余裕だな」



今度こそ教室中から、悲鳴に近い声があがった。
余計な事を言うんじゃないと口にしようとすれば、それを察した相馬は弁当を押し付け、さっさと去って行ったのだ。

残された杏奈は、ソッと教室に目を向け、溜め息を吐く。
誰もが驚いた顔をし、事実かを確かめたくてウズウズしている。


面倒…


杏奈は逃げるが勝ちと言う風に鞄を持ち、無断で学校を飛び出した。
そして正門に停まっている車に乗り込み、運転手の緒方を睨み付ける。
それだけで杏奈の言いたい事が分かった緒方は、苦笑いをしてバックミラー越しに口を開く。



「どうしても渡しに行くと言ってきかなかったのですよ。目立つから止めた方がいいと言ったのですが…やはり私が行くべきでしたね」

「どっちも同じだから!本当、目立ってしょうがない」



ありありと伝わる怒りに、これは自分の出る幕ではないと、バックミラーから視線を逸らした緒方はその後、相馬が帰って来るまで一切喋らなかった。
暇になった杏奈は、ちゃっかり眠りに落ち、相馬が帰ってきても気付かなかったのだ。


何やらユラユラしていると、閉じていた目を開けた杏奈。
視線が少し高いなと思い、すぐに相馬の膝枕の所為だと気付いた。



「起きたのか?不良さん」

「不良?たかが早退で?」



言いながら頭を上げ、ダルそうに座り直した杏奈。



「無断で早退するのはどうかと思うが?」

「誰の所為で早退する羽目になったと思ってんの?」

「さぁ?あぁ、そう言えば…聞かれたから答えておいたぞ」

「は?」



とてつもなく嫌な予感がする。
出来るなら自分が思っている言葉ではない事を願ったが、その願いは呆気なく散った。



「誰かは知らんが、お前が結婚するのは本当かと聞かれたから、そうだと言っておいた」

「相手、聞かれたんじゃない?」

「それも答えたぞ。担任にも伝えておいたから心配するな」



何処までも余計な事しかしない男に、杏奈は頭が痛くなった。
出来ることなら、学校の人には秘密にしておきたかったのだ。
理由は簡単。
説明が面倒臭いから。
根掘り葉掘り聞かれるのは好きではないし、いちいち答えるのも面倒だ。

なのにこの男は、ちゃっかり説明したと言う。
まだ卒業式まで日にちがあり、それなりに学校に行かなければならないと言うのにだ。



「あ〜面倒臭い!」

「ちゃんと説明したぞ。何が気に食わない?」

「男は何も分かってない!女はね、あれこれ聞いてくる生き物なの!例え説明しても、また同じこと聞いてくんの!」

「…頑張れ〜」



こちらも面倒になったのか、言った言葉は応援だ。
しかも心にもないような言い方がムカつく。



「あ〜!結婚面倒!」

「今更しないと言うのはなしだぞ。約束は最後まで守ってもらわなければな」

「契約書でもあるの?そんなモノないでしょ?証拠がなければ何の意味ないと思うけど?」

「あるぞ」



そう言って出てきたのは、紛れもない契約書だった。
そう…婚姻届と言う、それはそれは立派なモノだ。
しかも、自分のサインも入っている。
もっと言えば、承認の欄には自分の親の名前まで。



「書いた覚えないんですけど!詐欺師!」

「自分で書いておいて何を言っている?これは紛れもない本物だ」



どう言う技を使ったのかは知らないが、自分の筆跡くらい見れば分かる。
そこまでするのかと、恐い男だなと溜め息しか出ない。



「信じらんない…」

「人間、諦めも肝心だ。何、借金を背負わすわけではない。ただ、幸せになろうと言っているだけだ」



クスクスと笑う相馬が悪魔に見えた瞬間だ。
そして悟った。
この男を敵に回してはいけないと言うことに…
知らない所で金を借りている事になっていそうだ。



「騙された感が半端じゃない。連帯保証人にはなりたくないから」

「騙される方が悪い。まぁ、今後はしないでおく。あまり不安にさせるのも悪いしな。それと…本家と和解したから、いずれ挨拶に行くぞ」

「・・・やっぱり結婚なんて嫌だ〜!」



杏奈の大きな叫びは、誰にも届かなかった。
卒業して相馬と結婚し、末永く幸せになる…はずだ。






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あきゅろす。
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