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風神と舞姫と漆黒の狼
5
誰からというわけでもなく、教室全体から驚いた声が上がる。何をそんなに驚いてるのかな?
クラスがにわかに騒がしくなり、俺と雷華が頭の上に疑問符を浮かべる中、数少ない平然としている人物の一人、担任の福原先生がその姿を認めて話しかけた。
福原「丁度よかったです。今自己紹介しているところなので姫路さんもお願いします」
姫路「は、はい!あの、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします……」
小柄な身体をさらに縮こまらせるようにして声を上げる姫路さん。
肌は新雪のように白く、背中まで届く柔らかそうな髪は、優しげな彼女の性格を表しているようだ。保護欲をかきたてるような可憐な容姿は、男だらけのFクラスで異彩を放っている。
だけど、たぶん他の皆はその容姿を見て驚きの声を上げたんじゃないと思う。
F生徒「はいっ!質問です!」
既に自己紹介を終えた男子生徒の一人が高々と右手を挙げる。
姫路「あ、は、はいっ。なんですか?」
登校するなり、質問がいきなり自分に向けられて驚く姫路さん。その小動物的な仕草が可愛いなぁ…。
グニッ
風太「痛っ」
誰?今俺の足を踏んだのは。
風太「って雷華、何で今俺の足を踏んだの!?」
雷華「兄さん、口元がニヤついとるけど、何やあの娘で変な事でも考えとったんとちゃうの?」
風太「んな訳ないでしょ、ちょっとびっくりしてるところが可愛いって思ったり、ってちょっと雷華!?アイアンクローは止めてって、あ痛たたたっ」
俺が雷華のアイアンクローをくらっていたときに質問が浴びせられる。
F生徒「なんでここにいるんですか?」
失礼極まりない質問だな。
姫路「そ、その…」
緊張した面持ちで身体を硬くしながら姫路さんが口を開く。
姫路「振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」
その言葉を聴き、クラスの人は『ああ、なるほど』とうなずいた。
確か試験途中での退席は0点扱いになるんだっけ。期末テストとかでもこの決まりが出て来るから覚えておこうっと。
そんな姫路さんの言い分を聞き、クラスの中でもちらほらと言い訳の声が上がる。
F生徒『そういえば俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』
F生徒『ああ。化学だろ?アレは難しかったな』
F生徒『俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて』
F生徒『黙れ一人っ子』
F生徒『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』
F生徒『今年一番の大嘘をありがとう』
うわぁ…これは思った以上にバカばっかだなあ…。
姫路「で、ではっ、一年間よろしくお願いしますっ!」
そんな中、逃げるように吉井君と雄二君の隣の空いている卓袱台に着こうとする姫路さん。正直吉井君と雄二君が羨ましい。
風太「って更に強くなって来てるんだけど!?」
雷華「当たり前や。わざと強くしとるんやから」
風太「何で!?」
雷華「兄さんが女の子を変な目で見とるからや!!」
風太「ご、ごめん雷華、もう女の子をそういう目で見ないからアイアンクローを解いて」
妖魔「彼もこう言ってるから許してあげなよ」
雷華「しゃあないなあ、妖魔君に免じて許したる。もし次にこんなことがあったら今度はアイアンクローじゃ済まさへんから覚えときや」
風太「イ、イエッサー……」
福原「はいはい。そこの人達、静かにしてくださいね」
俺達と吉井君が大きな声を出したせいでパンパン、と教卓を叩いて先生が警告を発してきた。
明久、風太「あ、すいませ――」
バキィッ バラバラバラ…
突如、先生の前で教卓がゴミ屑と化す。まさか軽く叩いただけで崩れ落ちるとは。どこまで最低な設備なんだろう。
福原「え〜……替えを用意してきます。少し待っていてください」
気まずそうに告げると、先生は足早に教室から出て行った。改めてこのクラスの酷さを思い知る。
姫路「あ、あはは…」
吉井君の隣で姫路さんが苦笑いをしていた。ふと、そんな彼女を見て思う。他の皆はともかく、姫路さんがこんな酷い教室で学んでいくのはどうなんだろう、と。転入したばかりの俺が何かできることはないのだろうか。いや、一つだけある。俺の力で彼女が学んでいくに相応しい設備を手に入れる方法が。そうと決まれば善は急げだ。
明久、風太「……雄二(君)、ちょっといい?」
欠伸をしているクラス代表に声をかける。
雄二「ん?なんだ?」
明久「ここじゃ話しにくいから、廊下で」
雄二「別に構わんが」
立ち上がって廊下に出る。その時、一瞬だけ吉井君と姫路さんの目が合ったのが見えた。

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