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風神と舞姫と漆黒の狼
2.
Dクラス代表 平賀源二 討死


『うぉぉーーっ!』
その報せを聞いたFクラスの勝鬨とDクラスの悲鳴が混ざり、耳をつんざくような大音響が校舎内を駆け巡った。
F生徒「凄ぇよ!本当にDクラスに勝てるなんて!」
F生徒「これで畳や卓袱台ともおさらばだな!」
F生徒「ああ。アレはDクラスの連中の物になるからな」
F生徒「坂本雄二サマサマだな!」
F生徒「やっぱりアイツは凄い奴だったんだな!」
F生徒「坂本万歳!」
F生徒「姫路さん愛しています!」
F生徒「雷華さん結婚して下さい!」
代表である雄二を褒め称える声がいたるところから聞こえてきた。
ってか誰だよ。今どさくさ紛れに雷華にプロポーズしたヤツは。
雄二「あー、まぁ。なんだ。そう手放しで褒められると、なんつーか」
頬をポリポリと掻きながら明後日の方向を見る雄二。照れてるな。アイツ。
F生徒「坂本!握手してくれ!」
F生徒「俺も!」
もう英雄扱い。この光景を見るだけでどれだけ皆があの教室に不満を抱いていたかがわかる。そりゃ嫌だよね。畳の一部腐ってたし。
明久「雄二!」
雄二「ん?明久か」
雄二が明久の方に振り向いた。
明久「僕も雄二と握手を!」
明久が手を突き出したな。仕方ない。
ガシィッ
明久「風太……!どうして雄二との握手なのに手首を押さえてるのかな……!」
風太「押さえるに……決まってるでしょうが……!フンッ!」
明久「ぐあっ!」
明久の手首を捻りあげてやった。
明久はたまらず悲鳴を上げ、握りこんでいた包丁を取り落とした。
明久、雄二、風太「「「………」」」
雄二、風太「「………」
明久「雄二、風太、皆で何かをやり遂げるって、素晴らしいね」
雄二、風太「「………」」
明久「僕、仲間との達成感がこんなにもいいものだなんて、今まで知らな関節が折れるように痛いぃっ!」
雄二「今、何をしようとした」
明久「も、もちろん、喜びを分かち合うための握手を手首がもげるほどに痛いぃっ!」
雄二「おーい。誰かペンチを持ってきてくれー」
明久「す、ストップ!僕が悪かった!」
雄二「風太、放してやれ」
風太「了解」
雄二「……チッ」
雄二の指示で明久を解放した。
っていうかペンチを何に使うつもりだったのかな?
雄二「……ブツブツ……」
なにをつぶやいているのかな?
雄二「……生爪……」
うわっ、怖。逆らわないようにしよう。
平賀「まさか姫路さんと『東海の風神』竹中風太&『雷の舞姫』竹中雷華の双子兄妹、それから『漆黒の狼』闇崎妖魔がFクラスなんて……信じられん」
背中から誰かの声。そこにはがっくりとうなだれる平賀君の姿があった。
風太「ねえ、何で平賀君も俺達兄妹の事知ってんの?」
平賀「俺もインフィニティロード決勝戦の名皇学院対帝国学園の試合を見てたからな」
風太「ああ。なるほど」
姫路「あ、その、さっきはすいません……」
違う方向から姫路さんも駆け寄ってきた。
平賀「いや、謝ることはない。Fクラスを甘く見ていた俺達が悪いんだ」
これも勝負。騙し討ちっぽかったけど、姫路さんが謝る必要は全くと言っていいほどない。
平賀「ルールに則ってクラスを明け渡そう。ただ、今日はこんな時間だから、作業は明日で良いか?」
敗残の将か。なんだか可愛想だな。これから彼は再び試召戦争を仕掛ける権利が回復するまでの三ヶ月間を、あの教室で恨まれながら過ごさなくちゃいけない。勝てば英雄、負ければ戦犯。それがクラス代表なんだからね。
明久「もちろん明日で良いよね、雄二?」
そんな姿を見た明久がそう雄二に尋ねた。
雄二「いや、その必要はない」
すると雄二は予想通りの返答をした。
明久「え?なんで?」
雄二「Dクラスを奪う気は無いからだ」
それが当然の事であるかの様に告げる雄二。明久のヤツ、雄二の言いたい事がさっぱり分かってないな。
明久「雄二、それはどういう事?折角普通の設備を手に入れることができたのに」
風太「明久、忘れたの?俺達の目標はあくまでもAクラスのはずでしょ?」
打倒Aクラス。それは俺と明久と雄二の至るべき到達点。
明久「でもそれなら、なんで標的をAクラスにしないのさ。おかしいじゃないか」
風太「まったく、少しは考えなよ」
雄二「そんなんだから、お前は近所の小学生に『馬鹿なお兄ちゃん』なんて呼ばれるんだよ」
明久「……人違いです」
雄二、風太「「まさか……本当に言われたことがあるのか(あんの)……?」」
流石明久。小学生にまで馬鹿呼ばわりされるとは。
まさにゴッド・オブ・バカだよ。
雄二「と、とにかくだな。Dクラスの設備には一切手を出すつもりはない」
平賀「それは俺達にはありがたいが……。それでいいのか?」
雄二「もちろん、条件がある」
確かに。このまま解放したら意味がないよね。
平賀「一応聞かせてもらおうか」
雄二「なに。そんなに大したことじゃない。俺が指示を出したら、窓の外にあるアレを動かなくしてもらいたい。それだけだ」
雄二が指したのはDクラスの外に設置されているエアコンの室外機。
でも、この室外機はDクラスの物じゃない。名皇より少し下のレベルの設備でしかないDクラスにエアコンはないからね。置いてあるのはスペースの関係でここに間借りしている――
平賀「Bクラスの室外機か」
雄二「設備を壊すんだから、当然教師にある程度睨まれる可能性もあるとは思うが、そう悪い取引じゃないだろう?」
これはDクラスにとっては願ってもない取引だ。うまく事故に見せかければ厳重注意で済むし、それだけで三ヶ月間もの準備期間をあの最低設備の教室で過ごすという状態を避けられるのだから。
平賀「それはこちらとしては願ってもない提案だが、なぜそんなことを?」
平賀君の疑問はもっともだけど、雄二は雄二なりの考えがあってのことだと思う。
雄二「次のBクラス戦の作戦に必要なんでな」
なるほど。Bクラス戦への布石か。
平賀「……そうか。ではこちらはありがたくその提案を呑ませて貰おう」
雄二「タイミングについては後日詳しく話す。今日はもう行っていいぞ」
平賀「ああ。ありがとう。お前らがAクラスに勝てるよう願ってるよ」
雄二「ははっ。無理するなよ。勝てっこないと思っているだろ?」
平賀「それはそうだ。FクラスがAクラスに勝てるわけがない。ま、社交辞令だな」
じゃあ、と手を挙げてDクラス代表の平賀君は去って行った。
雄二「さて、皆!今日はご苦労だった!明日は消費した点数の補給を行うから、今日のところは帰ってゆっくりと休んでくれ!解散!」
雄二が号令をかけると、皆雑談を交えながら自分のクラスへと向かい始めた。帰りの支度をするのかな?
明久「雄二。風太。僕らも帰ろうか」
雄二「そうだな」
風太「了解っと」
勝てたという満足感もあるけど、さすがに疲れたな。
姫路「あ、あのっ、坂本君」
雄二「ん?」
皆の後を追って教室に向かおうとする雄二を呼び止めたのは姫路さんだ。
雄二「お、姫路。どうした?」
姫路「坂本君に聞きたいことがあるんです」
胸に手を当てながら興奮気味に話す彼女。大事な話みたいだから、俺は席を外そうっと。
雄二「おう。わかった」
そう応えると、雄二は姫路さんと一緒に俺や明久から少し離れたところで話を始めた。俺の隣で明久が葛藤しているのはこの際無視だ。
雄二「ま、元々興味はあったが、きっかけはコイツラがそんな相談をしてくたってコトだ」
そうしている内に、いつの間にか二人がこっちに歩いて来ていた。
姫路「あの、吉井君と風太君がそんなことを言い出した理由って……」
そんなこんなで続く二人の会話。
雄二「さて、風太の方は知らんが、明久の方は振り分け試験で何かあったみたいだが、それと関係があるかもしれないな。バカにはバカなりに譲れないものがあった、ってコトだろ?」
茶化すように、愛嬌たっぷりの笑顔で答える雄二。何かどこか誇らしげで楽しそうだ。何の話かな。俺の隣にいる明久はたぶんあれが愛の告白で姫路さんは雄二が好きだと思い込んでるだろうな。
姫路「振り分け試験って――それじゃ、やっぱり」
雄二「俺の口から言って良い範囲はこれが限界だと思うが――多分姫路の想像は間違っていないと思うぞ」
そうしてるうちに雄二と姫路さんが合流した。
雄二「さて明久に風太、そろそろ帰るぞ」
風太「了解」
明久「あ、うん。姫路さんとはもういいの?」
雄二「ああ。これで決心も固まっただろうし、な?」
雄二が問いかけると、ボンッっていう音が聞こえてきそうなほどに姫路さんの顔が真っ赤になった。…………ははぁん、なるほどね。姫路さんが本当に好きな人は明久なのか。
明久「ふーん、そっか。よくわからないけど、それじゃ帰ろうか。姫路さん、またね」
姫路「あ、はい!さようなら!」
顔を赤くしたまま手をブンブンと振る彼女に見送られて、俺と明久と雄二は教室を後にした。

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