部屋に入った途端、閉めたはずのドアが開く音が後ろから聞こえる。
「真雪、一緒にご飯食べよ?」
会いたくない人が妖しい笑みを浮かべて、戸口に立っていた。
真雪は突然の事で身体が竦んでしまう。
「尊さん……。私は食べたくないから、お一人でどうぞ」
そう言ってドアを閉じようとすると、力強くこじ開け尊が部屋に入ってきた。
「……尊さん、出て行って下さい。私は一人になりたいんです」
「俺は真雪に用事があってね。ねぇ、なんで俺の事避けるの?」
後ろ手にドアを閉め、尊はゆっくりと真雪に近寄る。
「避けてなんていません」
後ずさりする真雪を追い詰めるように、尊はじりじりと間合いをつめる。
張り詰めた空気の中、真雪の背中に嫌な汗が伝う。
「じゃあ何で逃げるの?」
薄ら笑いを浮かべる尊に恐怖感が増し、真雪は部屋から出ようとドアに向かって走り出した。
しかし尊とすれ違う一瞬、腕をつかまれたと思うと、壁に背中を強く打ち付けられ激痛が走る。
痛みで滲む目の前には、口の端を吊り上げた尊が真雪を見下ろしていた。
「手を……、離してください」
精一杯の虚勢を張ってみるものの、尊は笑いながら同じ質問を繰り返す。
「何で逃げるの?」
「だから逃げてなんて……」
「だって、俺と目も合わそうとしないじゃん。今だって逃げようとしてたし」
最早言い訳を出来るような状況ではなく、真雪はどうして良いかわからなくなっていた。
掴まれてた手に力が込められ、真雪は痛みで眉をしかめた。
「俺真雪の事ずっと好きだったんだよ。気付いてた?」
意外な台詞に真雪は驚きを隠せなくうろたえていると、畳み掛けるように尊は話を続けた。
「気付いてなかったの?かなりショックだな。真雪をこの家で引き取ろうって言ったのも俺の提案、ずっと真雪と一緒にいられるしさ」
尊は不気味な笑みを湛え、舐めるような視線で真雪を眺めている。
嫌悪で粟立つ真雪はその場から動けなく、言葉すら発せなくなっていた。