俺が6階に着いた時、凛が先にいて誰かと話をしていた。 後姿を見ても怒りを露にしている事が簡単にわかる凛に近寄ると、凛の影に隠れていた人物が姿を見せる。 車椅子にグッタリともたれている真雪。 そしてその真雪に馴れ馴れしくしている男の顔を見れば、今日見たばかりの顔。 御堂尊、こいつが真雪を。 「テメェ!」 怒りを爆発させる俺が殴りかかろうとすると、凛に振り上げた腕を止められた。 「凛!離せ!こいつは真雪を!」 「わかってる、しかしここで揉め事はまずい。すぐに榊達も来る」 「ウルセェ!こいつだけは許せねぇんだよ!」 怒りの炎を灯した瞳をぎらつかせ、尊に向ける。 「ったく、煩いな。真雪を連れて帰ろうと思ったけど、どうやら分が悪い。仲間がまだいるんじゃあね、二人くらいだったらなんとかなったんだろうけど」 怒れる俺とは対照的に、御堂尊は軽口を叩き俺達をニヤニヤしながら見ている。 そして寄せていた真雪の頬にキスをし、赤い舌を出してその場所を舐めていた。 「っのヤロウ!ふざけんな!真雪から離れろ!」 凛に腕を掴まれたままで俺は成すすべが無く、俺を捕まえていた凛の手の力が強くなる。 手が痺れるくらい握られ、俺は凛の怒りを身を持って感じていた。 何も凛はこの状況を冷静に見ていたわけじゃない。 俺と同様に苛立って、目の前で妖しく笑っている男を殺したいくらい憎んでいるのが、よくわかった。 「今日の所は帰るよ、今度迎えに行くまで守ってやって。俺の大事な女なんだから」 そして尊は含んだ笑みを見せ、俺の横を通り過ぎて行った。 息が荒くなり、頭に上った血が最高潮に達する。 「凛!なんで止めんだよ!もう手を離せ!」 俺の声に意識を呼び戻された風の凛は、腕を掴んでいた手を緩める。 「ここは人目に付きやすい。和泉の腕を離していたら、確実に御堂尊を殺していただろう?」 「そりゃそうだろ、殺すつもりだったんだから!」 「榊に怒られるぞ、それに俺だってアイツは許すつもりはない。この借りは仕事で返す。とりあえず榊達に連絡を、真雪を取り戻したと」 苛々しているのは何も俺だけじゃないのはわかった、でも……。 どうしても止められない苛立ちは、どこかにぶちまけたくて凛に八つ当たりをしてしまった。 自分でもガキくせぇとは思う。 理性だとか、感情だとかが全く制御できていない単なるガキ。 目線を下げれば静かに眠る真雪がいて、取り戻すことが出来たんだと思えば少しは怒りが治まっていくのがわかった。 しゃがんで真雪の顔を見れば目元に涙の痕がある。 敵は必ず、俺達の手で……。 もう真雪を泣かせるような事、絶対させない。 |