鈍い痛みが腹部に感じ、真雪は眉をしかめる。
しかし自分を包む温かさは心地良く、薄っすらと瞼を開いた。
ぼやけた視界には夕暮れを指す橙色の光が目に眩しい。
僅かに感じる揺れは眠りに誘うようで、どこか覚醒しきれないでいる。
車の後部座席にいる真雪からはハンドルを握る榊と、茶色の髪を無造作に掻き上げる和泉が目に入った。
微かに動かした身体に気付いたライカが真雪を覗き込む。
「真雪ちゃん、気が付いた?」
「ライカくん……なんで?」
心配そうな顔のライカが、隣から声をかける。
「目が覚めたか、気分はどうだ?」
低い声が真雪の頭上から降りそそがれ、真雪は凛の膝の上に寝ている事に気付く。
上から見下ろす凛に視線を移した真雪は、意識がまだ朦朧としているようで今にも瞳が閉じてしまいそうだ。
「……お腹……痛い」
安心出来る人達が目の前に居る……そう思った真雪は、また深い眠りについた。
次に気が付いたときは見慣れた天井が広がる、自室のベッドの上だった。
腹部に残る痛みは、今日の出来事を彷彿とさせた。
小さく瞬きをし、混乱している記憶を整理しようとする。
「起きたか?」
ソファに座っていた和泉は立ち上がり、真雪のベッドの端に腰を下ろした。
「……和泉くん」
「大丈夫か?」
「私……尊さんといた筈じゃ」
「俺等が迎えに行ったんだ。勝手に屋敷から出てんじゃねーよ、心配するだろ」
和泉は柔らかく握った拳を真雪の額に当て、口を尖らせる。
「ごめん……なさい」
「二度と勝手な真似すんなよ」
「はい」
「よし、じゃあ真雪が起きたこと皆に報告してくっから。寝てろよ」
真雪に指を差し強く言い放った和泉は、部屋を出て行った。
閉じられたドアを見つめ、真雪は自分の勝手な行動で皆に迷惑をかけてしまったことを悔やんでいた。
尊に何かされるかもしれない、最悪の事を考えていなかったわけでもない。
人の多い所でなら尊は手出しはしないと、高をくくっていた。
自分なりに強い意志はあると思っていた。
しかし実際は尊に突きつけられた真相の誘惑に負け、掌で転がされているような感覚で感情的になってしまっている。
尊の口車に簡単に乗ってしまった自分はなんて情けないのかと涙が溢れ、一人枕を濡らしていた。