「ソースの味見するか?」
「良いんですか?」
「良いも何も、そのためにここにいるんだろう?」
「そ……ですね、じゃあください」
小さく笑う凛はソースを少し掬い上げて小さな皿に入れると、真雪に手渡した。
「わぁ……綺麗。こんなに鮮やかになるんですね、これが真っ白なブラマンジェにかけられたら、もっと綺麗に映えそうですね」
「熱いからよく冷ませよ?」
凛に言われた通り細く息を吹きかけ、真雪は出来たてのソースを冷まし口に含んだ。
「うわぁ……すごく爽やかな味です、美味しい。これと一緒にブラマンジェ食べたらと思うと、明日が待ちどうしいです」
「楽しみにしてもらえて何よりだ」
凛は火を止め、ソースの粗熱とるためコンロから下ろした。
「真雪、美味しいのはわかったが。……ついてる」
凛は真雪の唇に指を伸ばし、スッと横に引いた。
僅かについたオレンジソースが凛の指につき、それを自分の口に運んだ。
チュッとノイズをたて、凛はソースを舐め取った。
「美味いな」
凛に唇を触れられてしまってから、真雪はのぼせ上がるように顔を赤くし、その場を動けないでいた。
凜は指を舐めながら視線を真雪にまっすぐ向けた。
忘れていた胸の高鳴りが瞬く間に蘇り、真雪は吸い込まれるように凛の目から離せなくなってしまった。
「凛さん……、ずるいです」
「何がだ?」
「どうして……、どうしてそんな事するんですか?私は……、そんな事されたらまた……」
俯く事も出来ず、真雪は凛を責める。
熱くなる身体や顔は自分でもどうする事も出来ず、一歩、また一歩と近付く凛を潤んだ瞳で見上げていた。
「ずるいのは俺じゃなく、真雪だろ?」
「……私?」
シンクを背にしながら、迫り来る凛を目で追う。
「こんな格好でウロウロして、警戒しろって言ったのに何も考えず俺の前でそんな顔をする」
「それはっ!……凛さんが味見を。それに変な顔をしていた覚えは」
隙間なく真雪の身体に密着し、凛は真雪を囲うようにシンクの淵に手をついた。
「そうかもしれないが、断っても良かったんだぞ?」
「……でも」
「俺の気持ちは、知ってる……よな?」
息がかかる程に顔を寄せる凜は真雪の頬に手を添わせる。
「凜さん……」
凛の顔が真雪に重なる。