全ての商品は宅配される事となり、手ぶらで駐車場まで向かった。
「あんなにたくさんの服いらなかったんですけど」
「真雪には迷惑でしたか?」
「そんな事!……ないですけど、でもなんだか悪くて」
「私達からの真雪へのプレゼントだと思って、受け取ってください」
「はぁ」
榊に甘やかされる真雪はどこかくすぐったく感じ、眉尻を下げて申し訳なさそうに笑った。
そんな真雪を見て、榊は腕時計に目をやる。
「もうこんな時間ですから食事して帰りましょう」
「でも……凛さん一人で夕食の準備するんですよね」
「真雪が服を選んでいる時に、凛には私が連絡を入れておきました。心配しなくても大丈夫ですよ」
抜かりのない素早い対応の榊に頭が下がる真雪は、素直に頷いた。
それから榊の行きつけだと言う割烹料理の店に赴いた。
こじんまりとした店は隠れ家的な装いで、真雪は静かな時と料理を満喫した。
「美味しかったです、ご馳走様でした」
「気に入ってもらえて良かったです」
店を出た二人は、すっかり暗くなった空の下を歩いた。
「今なら夜景が綺麗ですね。少し見に行ってみませんか?」
「行ってみたいです」
駐車場までの道すがら、榊の提案で寄り道をする事となった。
車に乗り込み、幾分か空いた道はスムーズに走る事が出来た。
車を走らせる榊は街を抜けてどんどん進む。
平日のせいか、すれ違う車も殆どいない道は林の中へと入って行った。
「私のとっておきの場所に案内しますね」
ハンドルを握る榊は視線を前に向けたまま話した。
どんな場所に連れて行ってもらえるかと、逸る気持ちに真雪の顔も必然的に笑みが零れる。
「着きましたよ。ここです、夜景が一望できますよ」
林を抜け急に視界が開けると、街の明かりが眩しいくらいに眼下に広がる。
「……うわぁ、すごい。こんな場所があったんですね……」
「あまり人に知られていない、穴場ですよ」
車が止まると真雪はいそいそと車を降り、夜景を食い入るように見つめた。
榊はうっとりと眺める真雪の隣に行き、喜ぶ真雪を見て微笑んだ。
「ここは私が疲れた時に良く来るんです。ここに誰かを連れて来たのは、真雪が初めてです」
「良いんですか?そんなお気に入りの場所に連れてきてもらって」
首を傾げ覗き込む真雪の頭を撫で、榊は優しく言った。
「真雪だから連れて来たんです。私のお気に入りの場所を、知ってもらいたくて」
でも、他の人には内緒ですよ?と悪戯っぽく口に人差し指を当てた榊に、昼間のときめきに似た動悸が蘇る。
「は……い」
見惚れる真雪は榊から目が離せなくなり。
小さな外灯に照らされ、見つめ合う二人の距離が徐々に近付く。