一人窓の外を望む尊は、誰も帰って来ないことに疑問を抱き始めた。
「煩いのが居ないのは良いが、誰一人戻ってこないのはおかしいだろ」
訝しげに思いながらテーブルに置かれたシャンパンを手に取り、グラスに注いだ。
小さな気泡が規則正しく浮かび上がるのを見つめると、シャンパンを一口味わった。
熱くなる息を吐き、側にある椅子に腰を下ろした。
「メイドや柳川の秘書すら、この部屋に来ないなんて。何かあったのか?」
窓の外を眺めながら、尊はぼやく。
静寂が包むその部屋に、ドアをノックする音が聞こえた。
ようやく誰かが戻ったのかと尊はいくばくかの安堵をするが、しかしその人物はドアを開けようとはせず、入ってくることがなかった。
「……どうぞ」
尊は動く気にもなれず、不可解な事をするドア越しの相手に少々の苛立ちを持って声をかけた。
その返事を待っていたのか、ドアがゆっくりと開いた。
「こんばんは」
「お前……誰?」
何とも軽装な格好の金髪の少年が、ドアの前に立っている。
見た事のない少年を、尊は怪訝そうな目で睨みつける。
そんな尊を少年は軽く受け流し、薄笑いを浮かべた。
「君の事を知ってる人だよ。御堂尊……だよね」
「……何者だ?」
尊は窓に向いていた身体を笑う少年に向け、敵意を剥き出しにする。
「待ってよ、まだ役者が揃ってないんだから」
目を細めて笑う少年に、神経をねっとりと触れられた尊。
癇に障ったのは一瞬で、すぐに平素の自分を取り戻し表情を一変させ口元を緩めた。
「何かショーでもやるのか?」
「面白い事言うね。そうだね、とても楽しいショーかもね」
静かに腹の探りあいをする二人。
短い時間ではあったが、思いのほか部屋の空気は重いものだった。
しかしそんな事すら楽しもうとしている二人の間に流れる静寂は、突然開かれたドアの音によって終りを迎え少年が見計らったように口を開いた。
「さぁ最後の宴の始まりだよ、今宵のラスト・ショー」