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愛しき殺し屋
銀色の輝き1



武島は部屋を出てから悲鳴の聞こえた方へ、用心深く加減しながら歩いて辺りを見回す。


「この辺りだと思ったんだが、……なんだこの匂い」


今までに嗅いだ事のない、甘い香りが武島の鼻を掠めた。
目の前にある部屋のドアの隙間から漂うように、冷たい風と共に流れてくる。

不思議に思った武島は、匂いの元を辿るべく部屋に歩みを進めた。


「……誰かいるのか?」


暗闇の中に戸口から伸びた光だけが細く部屋に入ってゆく。
その光の先には見覚えのあるシャンパンゴールドのドレス。そしてそこから伸びた、女の足。


「皐月さん!?」


そこには恐怖で顔を歪め、血の気の失せた皐月が事切れていた。
皐月の手の爪先は、自らを引っかいた掻き傷から流れる血で赤く染まっている。

慌てた武島は皐月を抱き起こし、その身体を揺さぶった。


「皐月さん!一体何があった!」


皐月の身体は薄ら温かく、死して間もない事を如実に語っていた。


「一体何が……」


武島が息を呑んだその時、部屋に射していた光が消えたと同時にドアが閉まる音が耳に入った。


「こんばんは、武島康徳さん。私は森村と言います、今宵は共に楽しみましょう」

「……知らねぇな」


武島は皐月の身体を下ろし、ゆっくりと立ち上がり榊に身体を向けた。


「お前が皐月さんを殺したのか?」

「いいえ、違いますよ」


榊は暗闇に慣れて間もない武島にわかるよう、大きな動作で肩を竦めた。
二歩三歩と歩き一定の距離まで来ると榊は歩くのを止め、武島に笑みを見せた。

完全に目が慣れた時、身構える武島は背筋が凍るようだった。
笑ってはいるが榊からは殺気が溢れ、自分に向けられているのを感じたから。
例え三流の組だとしても、多少の修羅場を掻い潜ってきた武島はそれが手に取るようにわかった。


「私は殺していませんが、仲間が殺りました」


榊は左手でジャケットの左襟を掴み、右手でホルターに入った拳銃を握り、それを構えた。
一瞬の出来事に、丸腰だった武島はうろたえる事しか出来ないでいた。

本能がコイツは危険だと警鐘をけたたましく鳴らしていた。
蛇に睨まれた蛙のように、武島はその場から一歩も動けなくなってしまった。


「私利私欲のために、今まで随分悪い事をしてきましたね、武島さんと柳川社長は」

「俺は言われたから、手を……貸してやったまでだ」

「武島さんも甘い汁を一緒に吸っていたんです。死なばもろとも、ですよね」


薄い笑みの榊を見て、武島は言葉を失ってしまう。

幾度と見た、あの目。
殺人を躊躇う事無く行う、迷いのないプロの目。

冷たく射抜くような視線の榊に、恐ろしさのあまり冷や汗が武島の首筋を流れる。





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あきゅろす。
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