「あなた、ちょっと失礼するわね」 「あぁ」 皐月は伴侶である忠に一言断り、足に纏いつくドレスの裾を翻しながら扉に向かい、パーティ会場を後にした。 部屋から出た皐月は高慢そうに鼻を鳴らし、パウダールームに足を向けた。 少々毛足の長い絨毯張りの廊下は、高いピンヒールの皐月にとって歩きにくく苛立ちを増す。 「どうやったらこんな趣味の悪い別荘を建てれるのかしら。やっぱり柳川さんは駄目ね。ぶくぶく太った醜い豚でしかないわ」 あちらこちらに調度品や美術品が無節操に統一感なくレイアウトされているため、皐月の美的感覚を逆なでする。 廊下を曲がり目的地はすぐそこという時。 皐月とぶつかりそうになる、金髪の男。 「わっ、っと、ごめんなさい」 「あら……あなたはどなたかしら?」 「あなたは御堂夫人ですよね?僕は柳川社長のゲストで、ライカです」 ライカは無邪気な笑顔を向け、軽く頭を下げた。 「まぁ、そうなの?柳川さんもこんな若くて可愛い子を呼んでたなら、紹介してくれても良いのに」 舐めるような視線でライカをつま先から頭のてっぺんまで、口の端を上げながら怪しく微笑む。 「御堂婦人に比べたら、僕なんて霞んじゃう。あなたの方が美しいですよ」 「上手ね。これからどこか行かない?あの部屋は、あなたのような可愛い子がいなくてつまらないわ。それにライカなら……皐月って呼んでも良いわ」 皐月はライカの腰に手を回し、ゆったりと開かれた胸元を見せ付けるように身体を密着させた。 下から望む皐月にライカは視線を落とし、穏やかに微笑む。 「皐月さん、僕の方から誘いたかったのにな」 皐月はライカに促され階段を下り、二階のゲストルームへ笑いながら入っていった。 甘く毒々しい香りが充満している、その部屋へ。 |