それからは口数少なく車に乗り込み、榊の運転で目的地の柳川の別荘へと向かった。
車の中は静まり返り、否応無しに真雪の緊張が昂ぶる。
誰かが何かを喋った所で、その緊張が解れるのかと言えばそうでもなく。
ただ漠然に落ち着きをなくしてしまった自分が、これから待ち受ける終焉に立ち向かっていけるのかどうか、不安で堪らなかった。
車のスピードが落ち、静かな別荘街へと車が進む。
一軒だけ灯りの燈る別荘の姿が見えてくると、そこで車は停車した。
少しの沈黙の後、榊が口を開く。
「真雪はここで待っていてくださいね」
榊以外は車を降り静かにドアを閉め、足早に別荘に向かった。
しかし榊は真雪の返事を待っているのか、降りようとしない。
それを覚った真雪が小さく返事をするとバックミラー越しに榊の目が細められ、すぐ帰りますからねとだけ言い残し、静かに車を降りた。
一人車内で、榊達を待つ真雪。
少し先には尊達がいる別荘が見える。
別荘街だが全く人気がなく、周りにある建物で灯が燈ってるのは、柳川の別荘だけ。
榊に待っているよう言われた真雪だが、ここまで来てお預けを食らわされるとは思ってはおらず、頭の中で何度も自問自答を繰り返す。
「私も……」
しかし頭で考えていても自分が納得する答えにはたどり着かず、もどかしさを覚える真雪は車を降りた。
春の夜風が少し肌寒く感じられ、蒼白い月が顔を出すのを瞳に映しながらドアを閉める。
高鳴る衝動にその風は心地好く、月の光が頭の中をスッキリとさせる。
芽吹き始めの木々からは葉が擦れ合う音が辺りを包み、別荘へ続くアスファルトに足音を小さく響かせる。
受け身でいても何ら解決しそうにないこの復讐劇に、己の中でケリをつけるために。
別荘の扉をゆっくりと開き、真雪は戸惑う事なく入って行った。
賽は投げられた。
後戻りは、もう出来ない。