眠りの縁から遠ざかり、瞼をゆっくりと開ける真雪。
気付くと目の前には白い天井が広がっていた。
身体中が軋むような痛みを訴えていて、思わず呻き声を漏らす。
記憶の糸を手繰り寄せても今の現状を全く把握出来ず、重い瞼が閉じようとすると金色の髪が視界に入った。
「目が覚めた?」
透き通るような白い肌に、金色の柔らかな髪を揺らした天使さながらの少年が真雪の顔を覗き込む。
「身体……痛い……」
「雨に打たれすぎて、高熱出してたんだよ。ニ日間も寝てたし……それで身体中痛いんだ。ちょっと待ってて、キミが起きた事知らせてくるから」
少年はそう言って、僅かに慌てた風に部屋を出て行った。
真雪は少年の背中を見送り、軋む関節を擦りながらベッドの上で身体を丸めた。
「死ねなかったの……?」
部屋に残された真雪はため息をつき、汗ばんだ首や額に手をやった。
まだ熱があるのか、額に乗せた掌すら熱く感じる。
熱い息を吐き出し朦朧とする意識にあぐねいていると、部屋のドアが開き穏やかな声が真雪の耳に入ってきた。
「大丈夫ですか?」
真雪はかぶっていた布団から顔を覗かせ、近くに感じた声に目を向けた。
「あなたは……」
目の前に現れた穏やかな声の主は、真雪の記憶が寸断される直前まで話をしていた、傘をさしたあのスーツの男。
「なぜ……、どうして殺してくれなかったんですか?」
「開口一番にそれですか」
スーツの男は苦笑いでベッド脇に置いてある椅子に腰を下ろし、真雪に微笑みかけた。
「しかし、なぜそんなに死に急ぐのですか?」
「それ……は……」
真雪にはもう何もない。
住む家も、家族も、頼る人も。
ならば恥も外聞も捨て、誰にも話した事のない今までの出来事を話した。
自分が死にたがる理由となる、両親の死からの出来事を。
スーツの男は真雪の話に耳を傾け、静かに聞いていた。
そして真雪が話し終わる頃には、それまで笑みを湛えていた男が神妙な面持ちになる。
「……あなたの名前を聞いても良いですか?」
「御堂……真雪です」
「御堂……、ちょっと失礼しますね」
「あの……私も名前、聞いて良いですか?」
その場を立とうとする男は、振り向いて小さく微笑んだ。
「私は森村、森村榊です。とにかく今は何も考えず、ゆっくりと休んでください」
榊は労わりの言葉を残し、部屋を後にした。