和泉にライカが居る部屋を教えてもらい、一人でその部屋の前に立ちすくむ。 「ライカくん仕事って言ってたけど、地下室で仕事?」 ライカの心配もしていたが、何をしているのかという好奇心がジワジワと増していた。 なぜかその重厚なドアだけインターホンのような物があり、訝しげにしながらも押してみる。 しかし何の返事もなく、静まり返る地下室。 「誰〜?」 「ライカくん?」 「真雪ちゃん?何ー?」 「ライカくんも一緒に、射撃場へ行きませんか」 「う〜ん、今仕事してるからな〜」 「……そうですか」 インターホン越しでドアを開けてくれないライカに、少しばかり寂しいと思う真雪の視線が徐々に下がってくる。 ライカは拗ねたような声はしていないものの、やはり傷つけたのかと思い、いたたまれなくなった真雪は黙り込んでしまった。 「真雪ちゃん?どうしたの?」 突然開かれたドアに驚き、真雪の下がった視線が声の方に向く。 「あっ、え、あの」 目を潤ませ無理に笑顔を作る真雪に、ライカは苦笑いを浮かべ部屋へ促した。 零れそうな涙を拭い、部屋に入るライカの後ろについて行く。 「ここは」 真っ白な十畳ほどの部屋に、実験機材のような物が壁際一面に並べられている。 「僕の実験室だよ。今ね〜、お香に凝っててさ、色々試しているんだ。今回の仕事で使う、催眠系のお香をね最近ずっと作ってるんだけど」 「へぇ……」 「興奮、催涙……今まで色々作ったんだけどねー、結構思う通り作れるから楽しいんだよね」 「凄いですね」 ライカが少し楽しそうに笑うのを見た真雪は、ホッと胸を撫で下ろした。 安心した真雪は、見なれぬ器具が所狭しと置いてある辺りを、キョロキョロと見渡す。 ライカの側には大小様々な乳鉢が置いてあり、鶯色や茶色の粉末、茶褐色の大小様々な瓶ががたくさん揃えられてある。 「これをこの乳鉢に入れて混ぜてさ、水を入れて。ここで本当ならアロマとか入れれば普通のお香が出来るんだけど」 ゴリゴリと乳鉢に乳棒でかき混ぜる様子を、真雪は興味深そうに見つめる。 「粉っぽさがなくなってきましたね」 「後は、ここに企業秘密の薬品を数滴……なんだけど。真雪ちゃんはこの香りに慣れてないから、この部屋から出た方が良いよ?」 ライカの手には茶褐色の小さな小瓶が握られており、英字が印字されたラベルが貼られている。 真雪は企業秘密と聞いて、少し興味が湧くものの“この部屋から出た方が良い”と言う台詞が気になった。 |