その部屋はとても広く、奥行きは十メートル程だろうか。
奥に人型の的があり、いくつか撃ち抜かれたような跡がちらほら見える。
銃を放ち終わったばかりなのか、銃声が響く。
「うわぁ……凄い音」
「まだこれは良い方だ、ただ木霊した音が残ってるだけだからな」
撃っていたのは慎哉だったらしく、的の正面に立っていた。
「おー!子猫ちゃん、来たのかい?」
「慎哉くんも出来るんですね」
「足を洗ったとはいえ、元殺し屋だぜ〜?これくらい出来なくちゃね」
軽く笑う慎哉は、真っ直ぐ的に視線を向ける。
銃を構え、げき鉄が音をたてる。
「うわっ!九条の馬鹿!」
和泉が声を荒げながら、咄嗟に真雪の耳を塞ぐ。
「ひゃっ!」
和泉の手によって耳は塞がれていたとしても、隙間から聞こえてきた音はかなりの音だ。
真雪は間近で銃声を聞いたのは初めての事で、こんなにも大きな音なのかと驚いた。
「あー煩え、耳がいてぇ」
真雪の耳を押さえる事で、和泉の耳は無防備な状態で銃声をモロに聞いてしまった。
痛そうに自分の耳を押さえ、眉をしかませ目を閉じた。
「和泉くん大丈夫!?」
勢いよく振り返り、後ろにいる和泉を心配そうに見つめる。
「あぁ、大したことねー。ってか、九条!真雪がいるからって張り切るな!」
「あれ?子猫ちゃん耳栓してねーの?」
慎哉は耳から耳栓を外し、真雪にポケットから真新しい耳栓を渡した。
真雪は和泉に促され、いそいそと耳栓をつける。
ごめんごめんと手を合わせている慎哉のすぐ側から、げき鉄の音が静かに響いた。
付けなれない耳栓に四苦八苦していた真雪の耳にも、その音は届く。
音の方に向けば、的ではなく慎哉に銃口を向けている凛がいる。
「ちょ、タンマ!凛、的はアッチ!俺は的ではない!」
わたわたと慌てながら、必死に遠くに見える的を指差す。
「知っている」
無表情のまま、銃を構える凛が言葉少なに返事をした。