「俺の助言が無けりゃ、もっと大変な事になってたかもな。早く片がついて良かった良かった」
能天気な慎哉の言葉に、凛の眉尻がきつく上がる。
「そもそも、九条がいらない話を出したからこんな事になったんだろう?」
「ちょっと待って!決行日まで時間がないんだから、今のうちに話した方が良かったんじゃね?」
「それにエントランスから真雪を抱いて、榊の部屋まで来たそうじゃないか」
「どこでそんな話を!子猫ちゃんが言ったの?」
怒りの揺らめきがライカを包み、眉間にシワを寄せ口の端を引きつらせ笑う和泉が慎哉に近寄る。
頬から汗をかく慎哉は嫌な予感がしてたまらなくなっていて、すぐにでもこの場から逃げ出したかった。
皆に顔を向ければ確実に、それぞれの人物と目が合うのがわかるくらいの痛い視線を向けられている。
「何勝手に真雪ちゃんを抱いたの?」
「ライカ!語弊がある言い方しないで!俺は抱っこして連れて来ただけで」
「勝手に触ってんじゃねーよ」
「和泉!?駄目なの!?子猫ちゃんに触るのも駄目なの!?」
「当然」
「凛まで一緒に言わないでよ〜」
泣き真似をする慎哉の隣に、ライカが座る。
慎哉はビクッと身体を揺らし、恐る恐るライカを見た。
そこには微笑むライカがいて、つられて引きつりながらも笑顔で返す。
「真雪ちゃんの身体、細いのに柔らかくて気持ち良かったでしょ?」
ライカの言葉に途端に明るい表情になった慎哉は、生き生きとした瞳で答える。
「そうなんだよ!若いからなのかな〜?肌に吸い付く感じがして、離したくなかったんだよなー」
ウットリと真雪の感触を思い出すように、慎哉は自身の身体を抱きしめる。
「……ほぉ」
「ふーん」
「真雪ちゃんの身体を、そんな短時間で堪能したんだ〜……慎哉くん?」
「さ……榊ぃ」
涙目になりながら助けを求める慎哉に一瞥し冷ややかな笑みだけを向け、榊はこのまま慎哉にお灸を据えてもらう事とした。
決行日に連れて行くという事を伝えに、落ち込んでいるであろう真雪の元へと足を向けた。
「榊の薄情者〜!」
叫ぶ慎哉の声は遠くに聞こえる。